第9話 聖女様の癒しパワー
ーーパシィン
「痛ッ! 師匠、腕、取れちゃいますよッ?!」
肩を押さえて、思わず叫ぶ。
師匠は鼻を鳴らし、木刀の先端を床スレスレまでさげると、「今日はここまで」と短く言い放った。
「マックス! 大丈夫!? 凄い勢いで打たれてたけど……ひゃあ!?」
俺が上着をめくると、青く腫れた皮膚が裂けて血がシャツに滲んでいた。
あのじいさん、スパルタなんてもんじゃない。
俺のことを殺す気だ。
「そこの小娘、おぬしのスキルなら、小僧を癒せるんじゃろ。はやくしてやれい」
師匠はそう言って、木刀を片付けて、さっさと道場をでていってしまう。
「マックスほら、肩だして!」
シャツをめくり、熱をもって痛みの増していく肩をマリーへ向ける。
マリーは道場のはしっこに放っていた
聖女の祈りの姿。……可愛い。
見惚れてると、みるみるうちに空っぽの試験管の内に、薄い黄色に輝く液体が満ちていき、あっという間に試験管を満たしてしまう。
これぞ、マリーの授かった特級スキル≪
彼女は本当に凄い聖女様なので、このように空の密閉容器内にさまざまな効果をもつ『
魔力の働きによるものらしいから、無から有を創り出しているわけではないが、はたから見たら、それはまさしく神秘そのものと言える。
原理が解明されていなければ、まさしく神のみの技というわけだ。
「マックス、霊薬かけるからね。しみるけど、すこし我慢するのよ」
ーージュワァァ
輝く霊薬をかけられた傷口が、燃えるように発熱し、命の鼓動を後押しするエネルギーの波が、患部から全身に広がっていく。
「うぅ、ありがとう、マリー。すっかり治ったよ」
肩をまわして、俺はマリーに笑いかける。
立ちあがろうとすると、ふとマリーが俺の胸に細い指をひろげてあてた。「まだ、治療が終わってない、かも」と
首をかしげていると、マリーはこほんっ、とひとつ咳払いをして、試験管を″畳″のうえに置き、俺の頭の近くによってきた。
じーっと見つめてくる
決まりが悪くなり顔をそらすと、マリーは俺の両耳をちょっぴりひんやりする手のひらで押さえ、持ちあげて、俺の頭の下に膝を差しこんできた。
「ちょ!? ま、ままままま、マリーッ?!」
頭の後ろに、いつも視界に入る白くて、ソックスの隙間からのぞいてる、ふっくらした太ももがある。
万人の夢を、俺はいま枕にしてるのだと知ると、不思議と意識が遠のいた。これはあまりに尊い。尊さ測定器があれは5000兆くらいいってしまう。
「ふ、ふふん、ま、マックス、これは聖女としての役目よ。怪我をしたひとに優しくするのは、と、とと、当然というものだからね。へ、へへへ、変な勘違いは、し、しちゃダメだからねっ!」
「ぅぅぅ……わ、わかってるよ、そんなこと。言われなくたって、べ、べべ、べつに何も思ってないよ」
マリーが逆さまの視界で、キリッとしたカッコ可愛い顔で睨みつけてくる。
ズイッと寄ってくる、可愛すぎる美少女。
鼻腔を聖女様の香りが支配するなか、マリーは前髪を俺の顔にちょこちょの垂れ触れさせながら「……なにか、言うことはある?」と恥ずかしそうに聞いてきた。
俺はなんと答えればいいのかわからず、ぷいっとそっぽを向いてしまう。
「あ、聖女の質問に答えないなんて、悪い信徒だわ」
「っ、やめ、マリー、そんな優しい手つきでほっぺたぐにぐにしないで、よ……」
「うりゅうりゅ〜。聖女様は絶対なんだから、言うこと聞かないとこうなんだからね!」
そうか、マリーにとってはこれは苦しい刑罰のつもりなのか。
もはやご褒美以外のなにものでもないけど。
やっぱり、こう思ってるのは、俺がおかしいからなんだよなぁ。ありがとうございます。
「うりゅうりゅ、よしよし、大人しくなったわね。それじゃもうちょっと、こうしていましょ♪」
マリーはしなやかな指先で、俺の顔の輪郭を確かめるようになぞり、破顔してニコッと笑うのだった。
俺は過剰な多幸感につつまれたからか、あるいは尊さ測定器が振り切れ、安心しすぎたからか、頑張って持ち堪えていた意識をうしなってしまうのだった。
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