第7話 聖女様と剣術道場へいく


「マックス! 剣術道場へ行くわよ!」


 気絶から目を覚ますと、マリーは息巻いて、腰に手をあててそう言っていた。


 まだボーッとする頭で、自分が寝かされていることを知り、ついでにあぐらをかいたオーウェンを枕にする形になっていた事に気づく。


 マリーの膝枕がよかったな……。


「マックス、それはまだ流石にレベルが高すぎたようだ。マリーも挑戦しようとしたが、顔から火を吹きそうになってしまってな」


 なに、オーウェンって心読めるの?


「ちょ、ちょっと、オーウェン! な、何のことを言っているのか、まったくわからない、わからないのだわ?!」


 慌てふためくマリーが、オーウェンの頭をポカポカ叩き始めた。


 オーウェンは瞑目して、ただ静かに聖女の怒りを受け止めるだけだ。


 マリーがなんで怒ってるのかわからないが、彼女に頭を叩いてもらえるなんて、羨ましい限りだ。


「お前も、筋金入りだな、マックス……やれやれ、ところで2人とも剣術道場に行くと言ったか? いったいどこの流派の剣術を習うつもりだ?」


 首をかしげるオーウェンへ、俺とマリーは顔を見合わせて、にーっと笑顔を深めた。


「「銀狼流ぎんろうりゅう!」」


 一緒に答えると、オーウェン目を見張って「銀狼流派……だと?」と驚いたようにつぶやくのだった。



         ⌛︎⌛︎⌛︎



 この世界には主な剣術流派が3つある。


 汎用型、攻撃型、防御型それぞれ、流派が分かれているが、特にマリーと俺の選んだ防御に重きを置いた『銀狼流』は修めてる剣士の数が圧倒的に少なく、もはや″幻の流派″、″第三剣術″とも呼ばれるほどだ。


 そんなご時世で、俺とマリーがジークタリアスで冒険者になるまえに、剣術家の先生を探してる最中、世にも珍しい銀狼流の道場を見つけられたのは僥倖ぎょうこうであった。


 実は俺たちの中で頭10個くらい抜けて強いオーウェンは、達人級の剣の腕をすでにもっているのだが、彼は″術″というより我流で剣を極めてしまっているため、俺たちに教えられるものではない。


 そのため、マリーと俺は、目を離すとすぐ努力して、勝手にひとりで強くなってズルい幼馴染を見返すために、銀狼流に目をつけたのだ。


「おお、これが銀狼流の道場! ……さびれてるけど、大丈夫かな?」


「ふふ、大丈夫よ、マックス。昨日、ここにわたしたちの″師匠″が帰っていくのを見たわ! イストジパング式とかなんとか、言ってたけど、とりあえず入ってみましょ!」


 俺たち3人は、変わった趣の建物の敷居をまたいだ。


 足元に砂利が敷き詰めれていて、板張り扉を横にスライドさせて開く、なんとも簡素なイメージを抱く建物。


 靴をぬいで、道場へあがらないといけないと言うのも、また変わっているな。


「おい、小僧ども、なに勝手にあがろうとしとる。ぶち殺すぞ」


「「「ッ!?」」」


 背後から声が聞こえて、俺とマリー、そしてオーウェンまでもが慌てて振り返った。


 そこにたたずむのはシワの多い、じいさんだった。

 しっかりした濃い顔立ちで、灰色の髪がふさふさしている。黒い瞳は眼力が強すぎて、すでに何人かぶった斬ってそうな迫力がある。


 この人こそ、街で見かけた俺たちの師匠だ!


「師匠! 街での見事な動きを見て、声をかけさせてもらったマクスウェルです! 覚えてませんか?!」

「覚えとらん。3秒以内に出ていけ、ぶち殺すぞ」

「え、え、いや、そんな邪険なーーぶぶへぇ?!」


 師匠の膝蹴りをもらい、俺は本日2度目の気絶をすることになった。


「マックスぅう! マックス嫌だ、死なないでよ!」


 マリーに優しく抱きとめられてるうちは、死ぬ気がしない俺であった。


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