第6話 聖女様ごらんください、これが交渉上手


 露店で買い食い。これすなわちシティボーイだ。


 マリーの聖女パワーも凄いが、それでは″買って食べた″ことにはならない。

 アルス村でも、村一番の美人だったマリーは周りの大人からたくさん甘やかされてたし、パンだのミルクだのを貰ってもいたしな。


「あれ? マックス、どこへ行くの?」

「今日の朝ごはんは露店なにか買おう。マリー見てて。本物の買い物というものを教えてあげるよ」


 俺は食べ物は可愛い顔してお願いすればもらえると思ってるマリーに、ほんとうの買い物というものを教えるべく、朝ごはんにぴったりなパンを買うことにした。


「オーウェン、大変よ、マックスったら露店では食べ物が無料がもらえることを知らないんだわ!」

 

 錯乱したことを言い出す聖女。

 

「マリー、とりあえず、これからは少しくらいお金を露店に落としていくんだ。君の元々の性格が露呈ろていして、聖女のイメージが崩れるまえにな」

「?」


「へい、店主! このアルス村のマックスに、その焼きたてのパンを3つくれないか?」

「聞いたことねぇ田舎出身なのはわかったぜ。これからはそのクソダサぇ肩書き名乗らねぇほうがいいぜ、坊主。ここらへんじゃ村から出てきた奴らをボッタくる気満々の奴らも多いからな。ほら、一個、銅貨1枚だ」


 銅貨を恐る恐る3枚渡して、いかつい店主からパンを受け取る。


「なんだ、坊主、ビビってんのか」

「び、ビビってねーよ! ていうか、そう言うこというなよ……」


 俺はふんだくるように紙袋を受け取り、マリーに恥ずかしい姿をさらさせた店主をにらんだ。


 店主はハゲた頭を指でかき、俺の背後を見ると「ほう」とひとつうなづき「いや、坊主、交渉上手だな! あとパンを3つおまけしてやろう!」と快活に俺の紙袋にパンを追加してきた。


 店主の謎のウィンクに戸惑いながら、マリーたちの元へ戻る。


「マックス、大丈夫? 恐いことされなかった?」

「そんな心配の仕方やめてよ、マリー、弟じゃないんだ……それより、これ見て、俺の交渉がうますぎて、銅貨1枚でパンを6つも手に入れたよ!」


「ふむ、マックス、どうやらちゃんと刃をチラつかせたようだな」

「凄いわ、マックス! これからはマックスと一緒に買い物にいく大義名分が……じゃなくて、マックスを名誉ある買い物係に任命して、連れまわす口実ができたわけね!」


 大喜びのマリーと、クールにほくそ笑むオーウェンとともに、俺たちは街の公園へ移動して朝ごはんにする事にした。


 ジークタリアスへやってきてからは、マリーが朝のお祈りを終えるなり、いつも決まって3人で朝食にするのが、俺たちのルーティーンなのだ。


 いつもは宿屋の代金に含まれてる、朝食を食べるのだが、たまには青空の下で食べるのも趣深おもむきぶかいものだ。


「あ、マックス、ほっぺたにバターがついてるわ」


 マリーに言われ自分でとろうとすると、「動かない!」と膝をペチンっと叩かれる。


 おとなしく硬直。

 

 すると、マリーは覚悟した表情で俺の頬に人差し指をそえてバター取り、そのままペロンっと指を舐めてしまった。


 な、なんて、大人で、えっちの行為なんだ!

 こういうのは結婚してからじゃないといけないのに!


「フッーー」


 あまりにも可愛い仕草に、心臓が鼓動をわすれ、俺は意識を失ってしまう。


「マリー、顔が真っ赤だぞ」

「うぅ、オーウェン、見ないでぇ、ぇ……!」

「ふむ、マックスも幸せそうに気絶しているな。なんでお前ら、まだ結婚してないんだ?」


 じれったそうにコメントするオーウェンの声が、最後に聞こえた。


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