暁のかばん(悩み、暗示?、夢落ち)
お題は「かばん」、さっぱりした作品を創作しましょう。補助要素は「明け方」です。
*
「ぎゃあ!! なっ、何が起きたの!? 怖いよー」
うだるような暑さの深夜。
受験勉強をしていた私は、突然おとずれた真っ暗やみに可愛くない叫び声を上げた。
窓の外も光はない。
……停電かな?
電力不足とは聞いているがまさかこんなに急に井戸の底にでも落とされたように真っ暗になろうとは夢にも思わなかった。
困ったことに、家には私ひとりだけ。
私が夏休みであることを幸いに、両親は北海道旅行に行ってしまった。
「懐中電灯なんてあったかなぁ……。あ、携帯。携帯はどこかなぁ」
手を伸ばし手探りで探すが、指先に物が触れる感覚がない。
そんなわけはないと、さらに腕を伸ばしたが手は闇を掴むのみ。
急に不安になり、恐る恐る数歩進んで何か手に取ろうとしたがそのまま躓きひっくり返った。
「うそ……。どうなってるの??」
六畳ほどしかない自室で派手に転ぶほどの広さなどない。
手を伸ばせば何かにぶつかるはず。
転んだことでもう天も地も分からなくなり、宙に放り投げられたような奇妙な感覚に襲われた。
*
毎日毎日、夜遅くまで勉強ばかり。
やってもやっても勉強が身についているとは思えず将来のことが不安だった。
クラスメイトに置いて行かれていると思うと焦る気持ちばかりが募った。
ただ、今このわけのわからない暗闇にぽつんといると妙に冷静な気持ちになってきた。
あがいても叫んでも誰もいない。
「はふ……。こんな時は、もう動かないで寝ちゃったほうがいいよね」
折よく、どこから吹いているのか夜の香りがする涼しい風が入り眠くなってきた。
*
気が付くと一筋の光が見えた。
縦に一筋ではない。横に一筋。
赤いような黄色いようなその光に吸い寄せられ近づくと、がま口を大きくしたような黒いカバンだった。
私は光を求め、カバンを開く。
すると、赤やオレンジ、黄色のまぶしい光が噴水のように噴出しだした。
きらきら。
きらきら。
目を細めずにはいられないほどの光の洪水は混ざりあって、白い暖かな光になった。
ああ、体に染み渡る。
*
ピピピッ! ピピピッ!
聞きなれた目覚まし時計の音。
むにゃむにゃと起きれば、夜が明けていた。
「あれ? 停電やあのカバンは夢だったのかな……?」
カーテンを開けば、夢のカバンから飛び出した光と同じ、まぶしい朝日が昇っていた。
おわり
あとがき
人間、多少あきらめて覚悟を決めると周りが見えてくることも……?
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