「私」という名の未来(詩ぽい?時代、渇望)
『「私」という名の未来』
―――ひとつの産声。
その時、私は泣いていた、
大声で力強く。
期待と不安と喜び……。
それが生きる証だった、それだけが生きている意味だった。
―――ひとつの歌声。
その時、私は歌っていた。
大地から息を吸い込み、大声で……。
喜びと豊穣を祈り。
松明の灯り、村人の眼差し、
それが生きる目的だった、それだけが存在する意味だった。
―――ひとつのうめき。
その時、私は両肩を抱くことしかできなかった。
降り積もる砂礫の下で、城の安泰など願うことが出来るだろうか?
恨み憎しみ、諦め……。
それだけが望まれたことだった、それだけが存在する意味だった。
―――ひとつの喘ぎ。
その時、私は抱かれることしかできなかった。
金で買われる郭(くるわ)のなかで、
それだけが生きる術だった、それだけが生きる術だった。
―――ひとつの銃声。
その時、私は腹を抑えうずくまる事しか出来なかった。
低いうめきと、流れる血。
苦痛と不安と悲しみと怒り。
理不尽な不幸。目の前にちらつく死の痛み。
それが生きている証だった、生きていた証だった、。
―――音のない声
その時、私は漂っていた。
真空の宇宙。音のない世界。
還ることのできない地球を見つめる。
それだけが生きる希望だった、それだけが生きる誇りだった。
―――大きな深呼吸。
肺の隅々まで空色の空気を吸い込み、私は大声で叫ぶ。
熱く、力強く。
「生きたい、生きたい、生きたい!」
過去よりももっと、
未来よりもっと、
今を精一杯……。
生きる希望?
夢?
現実?
将来?
そんなこと分からない。
そんなこと知らない。
ただ、
風を感じる。
風を感じたい。
青空を見上げ、右手で胸の鼓動と温もりを確かめる。
そう
どこでもない、未来はココにある。
【end】
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