虚空の自由(病弱少女、自由、夢オチ)



 少女は夢を見る。



 大きな翼を持つ鳥になる夢を。



 翼を広げ、大空へ舞い上がり、


 潮の香りのする風に身を任せる。


 翼にはらむ大気が心地いい。



 力強い羽ばたきで、さらに上昇すると、


 はるか彼方に水平線が見えた。


 眼下には、きらめく波。




 その波間に小さく漂っているのは、舟?




 あの水平線の彼方には何があるの?




 もっと、知りたい!


 もっと、飛びたいの!




 †




 レースのカーテンが揺れる。


 少女は、窓から日の光が差し込んでいるのをまぶたに感じた。


 揺れているこの光は、木漏れ日……?


 もう少しだけ、このまま夢を見させて!


 この海と空はどこかで結ばれているの?



 お願い確かめさせて!


 

 私を起こさないで……。




 †



 そう思いながらも、まぶしさに耐え切れず目を開いた。



 見慣れたリネンのシーツが映る。


 ここは……。


 いつもと変わらぬ、ベッドの上。



 病に捕らわれ外へでることの許されない体。



 少女は、小さな両手を握りしめた。


 これが現実の世界。

 



 †



 さっきまで、幸せだった。

 

 虚空を翔ける、翼あるもの。


 その瞳を借りて見る人の世は、なんと小さいものだったのだろう。


 こんなちっぽけな人間に生まれるくらいなら、鳥になりたかった。


 自由な羽を持つものに……。



 今日も、鳥になった夢をみた。



 ―――夢だけが、私の自由。









  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る