宇宙《そら》のボトルメール(宇宙、少年、少女)






 はるか宇宙船のあなたへ


 彼方の惑星ほしの君へ



 ボトルメールを流す。



 満ちた星海せいかい


 想いは夢を見ながら旅をする。

 


  ☆



 夏の夜空は、なぜか近く感じる。

 体を包む、昼間の熱気を残した空気。

 時折吹く風が、火照る肌を優しく撫でる。

 そんな空気や風が宇宙と私の架け橋になっているような気がする。

 わたしは今日も、受験勉強の息抜きと言い訳しながらベランダに出て星を見上げる。

 手すりに頬杖をつきながら、ぼんやりと眺めるその先には夏の大三角。

 白鳥座のデネブ。わし座のアルタイル。こと座のベガ。

 天の川銀河を抱くこの大三角が私は好きだ。


 わたしは、ごく普通の女子中学生。

 成績も普通。運動もまずまず。容姿もありふれている。

 だからこの先、ノーベル賞をもらうような学者にもなれなければ、オリンピックで金メダルを獲ることもない。

 ましてや華々しくアイドルになることなどありえない。

 ありふれた未来を迎えるだろう。

 大抵の人はそうだし、そのことに不満や憤りはない。

 けど、星空の下、耳を澄ますと胸がざわめく。

 物語のように命がけで戦ったり、

 狂おしいほど胸をこがして恋をしたり、

 夢を追って駆け出したい気持ちがここにあると主張する。

 あの星の向こうには、そんな世界が広がっているような気がして、憧れが募る。

 だから、夏の大三角に向かって、想いを寄せる。

 誰に向かって書くわけでもないボトルメールのように、想いを星の海に漂わせる。



『わたしは、どこにでもいる普通の女の子です。

 あなたは誰ですか?

 やっぱり普通の男の子だったりするのかな?

 それとも宇宙人だったり?

 わたしは学校に行って勉強をして、友達と笑いあってそんな毎日を過ごしています。

 冒険に憧れるけど、平凡な日常も嫌いじゃないの。

 ここが私の場所だから。

 この場所で、がんばっています。

 だから、あなたもがんばって!』



 暖かな星々が見つめ返されると、同じ想いが届く気がする。

 どこかにいる、遠い星の人から。

 そう、あなたから……。


  ☆


 宇宙船の窓から星の眺める少年が一人。

 青い髪に、緑の瞳。耳の形は地球人のものとは違い少し尖っている。

 その瞳に映るのは、どこまでも広がる星の海。

 上に、下に、

 前に、後ろに、

 文字通り星は四方にある。

 ここは、宇宙空間。

 黒の空間と白の点の変わらない景色。

 白の点と黒の空間の変わっていく景色。

 流れゆく星々が日々違うのは新天地を求めて進む移民船の中だからだ。


 故郷から飛び立った船は、五千人を乗せてもう200年進み続けている。

 僕は、この船で生まれこの船の中で死ぬだろう。

 計算上、僕が生きているうちには新天地の惑星にたどり着けないことは明らかだ。

 船での生活は快適だし、ここ以外の生活を知らない僕は満足している。

 塩辛くない海。何色にでも変わる空。まぶしいだけの太陽。

 すべて人工にせもの

 けれど、僕にとってはそれが本物。

 本物とはどういうものだろう?

 想像すると、胸がせつなくなる。

 物語でしか聞いたことのない、水で満たされた青い惑星を想いながら星々に語りかける。


『僕は、惑星間移民船に住むただの学生です。

 君はどこにいますか? 

 そこは美しい惑星ですか? 

 青空というものや海というものがありますか?

 君がうらやましいな。

 でも、僕は人工の空や海しか知らないけれど、星だけは誰よりもたくさん見ているよ。


 時々、ここではないどこかで生きる僕の姿を夢見ることもある。

 だから、君に呼びかけずにはいられない。


 いつかきっと、何世代もかけて青い星にたどり着く。

 その時まで応援してほしいな』


   ☆

 


 見つめ返すのは、星々の瞳。


 わたしたちは、


 僕たちは、


 進んでいく。


 未来へ。


 立ち止まったときは星を眺め、想いの詰まった小瓶が誰かに届く夢を見よう。



 ――― この宇宙はつながっている。




       ☆ E N D ☆


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