オレンジ色の教室で(初恋、告白、中学生)

「オレンジ色の教室で」 お題:三分間


 夕陽の射す放課後の教室。

 オレンジ色の暖かい光がすべてを照らしてくれているおかげで、僕の顔のほてりは彼女には気づかれないだろう。

 僕の目の前には、頬にかかる髪をかるく耳にかきあげながら日誌を書く、山田千絵の姿があった。

 小動物のように黒目がちな瞳に、可愛らしい鼻。リップを塗っているのかつやつやした唇にドキッとする。

 僕が、密かに想いを寄せている女子だ。

 といっても、今は告白の為に呼びだしたわけでもなんでもない。

 そんな勇気は持ち合わせていないから……。

 今日は、単に日直が回ってきただけだ。

 それでも、この日をどれだけ心待ちにしていたことか!

 シンと静まり返る教室に二人きり。

 昨日の夜は、何を話題にすればいいのかあれこれ悩んだり、あわよくばカッコよく告白したり、されちゃったり!? と妄想が膨らみ眠れなかった。

 

  *

 

 しかし、現実はそう甘くない。

 僕は、緊張のあまり『ああ』とか『うん』の相づちしか打てないふがいなさ。

 他の女子とならば、もう少し会話もできるが、千絵さんだけは別だ。

 大きな瞳で見つめられると、カアッと頬が染まり緊張で言葉がでない。

 本当に、今が夕暮れ時でよかったと胸をなでおろす。

 天文部なんていう地味な部活の僕は性格も控えめで容姿もさほどではない。できれば、暗がりにいたいし、その方が落ち着くタイプだ。

 演劇部でキラキラとスポットライトを浴びているような千絵さんとくらべたら月とスッポンだ。

 月とスッポン……? でも、スッポンて高級食材だったような……。

 じゃあ、ミシシッピアカミミガメにしておこう。

 馬鹿みたいにそんなことをリピートして考えているうちに、いつの間にか長い沈黙が生まれていた。



  *



 そんな沈黙に耐えかねたのか、千絵さんが日誌を書きながらぽつりと言った。

「ねえ、怖いものがないヒーローになりたいって思わない?」

 密かに想いを寄せていた僕としては、千絵さんの突然の言葉の意味を量りかねてオロオロとする。

「きゅ、急にどうしたの??」

 僕は、ずり落ちた眼鏡をあげながら聞き返した。

 すると、千絵さんが目線をはずしながらいつになく元気のない様子でぽそぽそとつぶやく。

「3分間のピコピコタイマーがついてるのでもいいの」

 なんでもできる千絵さんが、どうしてそんなものに憧れるんだろう。

「勇気が欲しいの、たった一言伝えるだけの」

「???」

「私、裕一君のこと好きなんだ」

 ええっ!? 僕のこと!?

 夢ではないのかと、手の甲をつねるとあまり痛みを感じずよくわからない。

 なら、確かめるためには僕も勇気を出すしかない。


 顔をあげて千絵さんを見つめる。


 すると、オレンジ色に染まっていたのは僕だけではなかったことに気がついた!




                END



* * * *

すみません。天文部に作中のような偏見はないです。^^; 

星に詳しい人かっこいいです! プラネタも大好きでよく通ってます。

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