水の惑星の昔話(婆様、昔話、SF)

“The legend in the planet of water”―水の惑星の昔話―


 草原を渡り歩く民は満天の星空の下、子供たちに昔話を聞かせるという。


「お前たちは、『地球』という星の話を聞いたことがあったかのう?」

 婆様の問いに、子供たちは暖かな薪の炎で頬を染めながら元気に答える。

「ちきゅう? まだ、聞いたことない」

 すばるのゆりかごや、バラや馬頭星雲のおはなしならもう知っていると口々にいう子供たちに、お婆様は満足そうにうなずいた。

「では、今日はわしらの星の始まりとなった『地球』の話をきかせてやろう」

 皺に隠れた小さな黒い瞳を閉じ、祈るようなしぐさで息をつく。

 婆様は、頭の中にたくさんの宝石を隠していて、毎日ひとつずつ手渡してくれる。

 ぬくもりのある不思議な『昔話』という名の『宝石』を……。


 ☆


 むかぁし、むかぁしのこと。

『地球』という、惑星があったそうな。

 その惑星は、『太陽』と言う名の炎の星に恋焦がれていた。

 力強く、暖かい太陽。

 それに比べて、地球はまだ何も持たないちっぽけな乾いた惑星でしかなかった。

 地球は、そんな自分は太陽に振り向いてもらえないだろうと泣き暮らした。

 涙は、やがて真っ青な大きな海を作り出した。

 

 青く美しい地球に、いつしか太陽も気づきこころ癒され、惹かれていった。

 太陽は美しい地球を守ってやりたいと、暖かく見守り支えたという。

 地球には、多くの命が栄え、いつしか二つの惑星は仲むつまじい恋人同士になったのじゃ。

 何年も何年も……。

 永遠とも思える時間、二つの惑星は互いを想いあったそうな。



 それから、55億年たったときのこと。


 太陽が病にかかった。

 高熱が続き、周りの星を焼き尽くす不治の病。


 太陽は、灼熱が愛しい地球を焼いてはならぬと、地球に遠くへ逃げるように言った。

 しかし、地球はその申し出をかたくなに拒みそばにいた。

 見えない絆が、二つの惑星を結んでいたんじゃのう。


 地球は、苦しむ太陽の熱を下げようとそばに寄り添ったため、

 青々とした水は干上がり、

 瞬く間に大地は枯れてしまった。


 変わり果てた地球を、太陽が最後の力を振り絞り強く抱きしめる。


 地球も太陽も大きな爆発を起こし、砕け散った。


 あたりは、真っ暗闇な静寂に包まれた。


 しかし、そこには地球と太陽のきらめくかけらたちがまかれている。



 ――――――  一片の星屑。


 それは、膨大な時間とともに寄り集まり。


 新たな、命を誕生させるのじゃ。


 第二の太陽、第二の地球を……。


 ☆



「死んじゃった星から、私たちの惑星が生まれたの?」

 身を乗り出して聞いていた子供が、大きな瞳を瞬きした。

「星の終わりは、星の始まりでもあるんじゃよ。

 それが、宇宙の理じゃて……」

 そこまで言うと婆様は、自分と子供たちに山羊の乳の入った暖かな茶を入れた。

 それを飲みながら一息つくと、頭上に広がる星のテントに目をやった。


「わしらは、太陽と地球の一片からできているのじゃ」

「いっぺん? ってなに」

「ちいさなかけらのことじゃ」

 何億年も昔の、地球と太陽……星の欠片たちから私たち惑星が、

 私たちが生まれた。


「だからのう、みな等しい存在なのじゃ」


 地球という星があったのは、

 太陽という星があったのは、


 今から、遥か遥か昔のこと……。





 ☆end☆

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