金木犀(ファンタジー、精霊?、少女)

 「金木犀」


 この香り……。


 優しくて、せつなくて。


 甘くて、苦しくて。


 ああ、もうこの花が咲く季節になったのね……。





 私は、金木犀が嫌いだった。


 いつもいつも、この花の香りは、私に『別れ』を告げるから。



 私が、生まれた時からそうだった。


 私が、捨てられたのは、金木犀の花の下。


 母親の顔も、なぜ捨てられたのかもわからない。

 けど、たった一つ覚えている。


 むせ返るような、金木犀の甘い香り……。




 憧れていた先輩が転校したとき。


 育ててくれた両親が離婚したとき。



 この花が、咲いていた。

 この香りが、立ち籠めていた。





 でも、彼の場合は違っていた。


 彼は、出会ったときから金木犀の匂いがした。


 嫌なことを思い出させる、彼。

 ずっと、避けていたら彼の方から話しかけてきた。




「なんで、俺のこと避けてるの?」


「あなた、いつも金木犀の匂いがするんだもの」




 彼は、少し悲しそうな顔をして




「……しかたないだろ、家に咲いてるんだよ」


 と、だけ言った。 




 そして、私たちはつきあい始めた。






 あれから、五年……。


 私たちは、金木犀の咲くこの季節に結婚式を挙げた。



 もう、金木犀は嫌いじゃない。

 彼がいるときは、いつも金木犀の香りがするから……。


 金木犀は、私の幸せの香り。





 あるとき、彼が言った。


「金木犀はさ、君のことを見守ってたんだよ。

 辛いときも、悲しいときも。

 金木犀は、君を抱きしめる二本の腕がずっと欲しかった……」






 ★END★


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