僕らは無重力の中で(SFちっく、幼馴染、少年)
『僕らは無重力の中で』
スペース・シャトルは嫌いだ。
むしろ憎んでさえいる。
なのに……。
幼なじみのオリエは、僕の部屋に乱暴に入ってきたあげく、こう言い放った。
「レオ、
宙港とは、宇宙へ行く
「どうして!? オリエは、僕がシャトルを嫌いなの知っているじゃないか……」
僕は、読みかけの本を置いて抗議するが、効果はなかった。
「あたしの言うことが聞けないの!」
オリエに、言われたら僕は逆らうことなどできやしない。理由は、彼女が僕より1歳年上で12歳だということだけではない。僕がオリエの家の居候だということもある。
しかも、生まれたときから。
★
僕の両親は、11年前に
それは、僕が生まれてすぐのこと。
僕は、たった一人地球に残されオリエの家へ預けられた。
(両親は、白いシャトルを選び、
僕を捨てたんだ……)
★
たれ耳ウサギのような三つ編を揺らすオリエに、僕は宙港の中を引きずりまわされた。
白いシャトルを見たくないがために、学校の
(でも、どうしてオリエは宙港中フリーパスで移動できるんだ??)
よく見れば、オリエの手には彼女の父親のIDカードが握られていた。彼女の父は宙港の管制長だ。
「黙って持ってきたの!」
白い歯を見せて得意げに笑うオリエを見て、僕は頭を抱えた。
★
オリエは、宙港と街が見渡せる部屋に忍び込むと、外から人が入れないように鍵をかけた。
(誰もいないけどこの部屋は……、宙港長の書斎だ!
絶対、怒られる……気が重いなぁ)
しかし、ふと窓の外に目を移すと、無数のシャトルが待機する敷地の向こうに街に沈む夕日が見えた。
ビルに隠されて消えていく見慣れた日没より、ずっときれいだ。
傾いた日の光が部屋に差し込み、ゆっくりと二人の影を長くする。
「レオは、シャトルの白い機体を見ただけで寒気がするって言ってたでしょ?
だから、『赤いシャトル』を見せてあげようと思ったの!」
見れば、いつもは真っ白なシャトルが夕日に染まり、暖かな茜色に輝いている。
二人きりの部屋で、僕の鼓動が大きく鳴った。
両親を連れて行った宇宙船アークⅢ―――真っ白なシャトル。
僕に残されたのは、その船の前で撮影された父と母と自分だと到底思えない赤ん坊の写真。
だから憎かった。
『白いシャトル』さえなければ、僕は孤独ではなかったはずだと……。
けど、その写真だけが両親と僕との絆でもあった。
眼下にある一機のシャトルが星を目指し飛んで行く。
重力に逆らい、力強く、真っすぐに。
それはぐんぐん空へ向かい、茜色から、金色になり、やがて白く光り輝き、星に並らび宇宙へと消えていった。
(ああ、なんてきれいなんだろう……)
胸が焼けるように熱くなり、頬を透明な雫が流れた。
「おとう…さん……、おかあさんっ!」
僕を捨てたなんて、疑ってごめんなさい。
オリエの家族は、僕にとても優しいし、オリエもこうやって僕の世話を焼いてくれる。
本当は、とても幸せなんだ。
『ゴールのない旅に、一番大切なあなたを連れて行くことはできないの。許してね……』
覚えているはずのない、優しい母の声が聞こえた気がした。
『みんなで仲良く住めるすばらしい惑星を見つけよう。だから、強い子になって追いかけておいで』
そうだね。お父さん。
僕は、宇宙に行けるくらい強くならないといけないね。
そうしていつか、お父さんとお母さんが見つけた新しい惑星で一緒に住もう!
オリエが、ハンカチを差し出してくれたが僕は自分の手の甲で涙を拭った。
強くなるんだ!
オリエに心配されないくらい。
うんと強く!
「オリエ、ありがとう……」
涙は止まらなかったが、笑顔で言えた。
「大好きなもの、大好きって言ったほうが気持ちがいいでしょ?」
「うん。僕、シャトルが大好きだ!」
★
あの小さな冒険から、10年。
僕らは、銀砂を撒いたこの宇宙で、
無重力の中、キスしている。
★end★
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