騎士の条件(ファンタジー、姫、騎士)
らんさんの本日のお題は「酒」、可愛い作品を創作しましょう。補助要素は「知り合い」です。
※考え中のお話から、一部おいしいところだけ書いてみました。
*
『騎士の条件』
「ア、アイリン姫!? どうしてこんなことに……」
旅の連れであるアイリンが酒場で酔いつぶれていると、この街で知り合ったものからウィルフレムが教えられ飛んできた。
たったひとりの護衛の騎士のウィルフレムは、ため息交じりにうなだれた。
「むにゃ? ウィルフレム? いつから双子になったにょ?」
アイリンは、金髪のゆるいウェーブのかかった髪を少し乱し、寝起きのようにとろんとした目でウィルフレムを見上げた。
「アイリン姫……いったいどのくらい飲んだのですか?」
「そんなににょんでまへんよ。エールを1杯。葡萄酒を2杯くらいれす」
「意外に飲みましたね。どうしたんですか。あなたが自分からお酒を飲むなんて初めてじゃないですか?」
アイリンが自分からお酒を飲む姿など見たことがない。公の席でも飲んだふりをしているだけだ。ウィルフレムは困惑した。
「ウィルフレムもこの1年お酒なんてのんでないれしょ? もう、今日からはのんでいいわよ」
杯になみなみと葡萄酒をつぐと、ウィルフレムに押し付ける。
アイリン姫は、エメラダリア王国の姫だったが隣国から攻め入られ現在は逃亡中。
護衛騎士である彼はその時から一滴も酒を飲んでいない。
「私は飲みません。今は身分は偽っても、騎士ですから」
「もう、わたしのこと守らなくてもいいの。守らないでほしいの……」
「……つかれましたか?」
「少し。でも、不謹慎なことにあなたとの逃亡生活が楽しいの。
それも今日でもうやめましょう。ウィルフレム、自由になって」
「クビということですか?」
「そうね。このまま逃げても国に戻れないし、普通の娘として生きていこうと思う。
ここまで来ればもう大丈夫だろうし。もう兄妹設定で逃げるのも限界でしょ? だって似てないもの」
「まあ、そうですねぇ」
「気づいてたの!?」
「いや、まあ……はい。なので兄妹と表向きはしていますが、かけ落ち中だから内緒にしてくれと言ってました」
「わたしだけが知らなかったのぉぉ」
酒で涙腺がゆるんでるのか、アイリンはめそめそと泣きだした。
自分が決めた逃避行の設定が、現実味がなかったことを1年もたって教えられたことがよほどショックだったのだろう。
「たとえ姫が『姫』を辞めても、私にとってはずっと姫なんですよ」
「わたしにとって、ウィルフレムはもう騎士じゃないの。ごめんなさい」
「今日は、私は何度フラれればいいんですか……」
「守られるだけじゃなくて。あなたを守りたいの。わたしも、誰かを守る『騎士』になりたい」
酔っていたはずのアイリンが毅然とウィルフレムに告げ、傷だらけの大きな手にそっと小さな手を重ねた。
ウィルフレムはハッと顔を上げ自分がフラれていないことに気づき、あわてて以前から用意していた言葉を語る。
「先日、この村で盗賊退治をした礼に土地をくれると言われ、畑でもして生活できたらいいだろうなぁと考えていたのです。
その、姫も手伝ってくれませんか?」
「ひっく。私でいいの? それに、騎士ではなくなってしまうわ」
「アイリン。大切な人を守るのが騎士なんです。だから剣を捨てても私は変わりません」
ウィルフレムは、アイリンから杯を受け取ると飲み干した。
新しい門出を祝して。
・END・
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