説明は深夜に(現代、ラブ、勘違い)
説明は深夜に(現代、ラブ、勘違い)
らんさんの本日のお題は「説明」、ほっこりした作品を創作しましょう。補助要素は「深夜」です。
・ほっこりな要素がちょっと抜けていますが、ホッとした感じということでご勘弁をw
*
「説明は深夜に」
「お願いだから、説明させてくれ!」
息を切らせながら非常識にも深夜に部屋に訪問してきたのは元カレだ。
そう『元』彼氏。
まあ、かといって『今』彼がいるわけではないから元カレという言葉が適切なのかどうかもわからないけど、別れてほやほやの彼氏というのも元カレといっていいのだと思う。
私は、つい1時間前に彼とメールでお別れした。
以前から、私以外の女の子と歩いている姿を見たという目撃情報が友達からあり、まさかとは思っていたが今日、自分の目でその事実を確認してしまった。
背が高くてスタイルのいい、モデルのようなキレイな女の子だった。
修司と並んでいるだけで絵になる。
しかも、べったりくっついて親密そうな雰囲気。
中学校でも高校でも大学でも修司はモテていた。
今だって、モテるに決まっている。
がーんと頭を殴られたような気がした。
なんの努力もなく手に入れた彼女の座。
昨年、告白もしないで幼馴染からなりゆきで彼女に昇格したけど、ずっと片思いしていて修司のことが好きだった。
いい気になっていたツケが回ってきたんだ……。
自分だけが幸せで、相手が幸せかどうかなんて確認もしなかった。
彼から別れを告げられるのは時間の問題だと思った瞬間、それだけは嫌だと思った。
別れたくないという気持ちは当然ある。けれどそれ以上に彼の口から『陽子のことが嫌いになった』とか、『他の子が好きになった』という言葉を聞きたくなかった。
それを遮るためには、私から別れを告げるしかない。
そして、別れのメールをしたのが1時間前。
―――― 修くんへ
今日、綺麗な彼女と一緒にいる姿を見ました。
私の役目は終わりです。
彼女と幸せになってください。
陽子より
こういう大切なことは、メールではなく電話でするものだとよく言うけど、そんなことをしたら私の決心が揺らいでしまう。
声を聞いたら、泣いてすがってしまうかもしれない。
私の方は、まだ彼のことが好きだから。
重い女とは思われたくない。『彼女がいたのね。応援するわ』という雰囲気で別れれば、どこかで会った時もさほど気まずい空気にならないで済むじゃない?
って、どこかで再会することを考えている時点で往生際が悪いけど……。
*
ドア越しに私の名前を呼ぶ声が聞こえる。
これ以上、何をダメ押しするのだろう。
十分ヘコんでいるし、傷ついている。
修司、もうそっとしておいてよ……。
頭を抱えて部屋の隅でうずくまっていると、扉の向こうが静かになった。
あきらめて行ってしまったのだろうか……?
これでもうおしまいなのだと思うと、確認せずにはいられず玄関を開けた。
「――― ど、どうしてまだいるの!?」
入口近くに、修司が座っていた。
それはもう、ドアが開くまで動くつもりはないという雰囲気の座り方だった。
「陽子がいるのわかってるのに、あきらめて帰ると思う?
だいたい、あんなメールひとつで終わりだなんてないんじゃない?」
修司は、ため息を吐きながら膝や尻の汚れを払い立ち上がった。
私の方が泣きたいのに、修司が今までになく傷ついたような顔をしていて何も言えなくなってしまい、うながされるまま部屋に上げてしまった。
「私、修くんとは釣り合わないから、別れた方がいいと思って……」
「そうじゃないでしょ。俺が浮気してると思ったから、別れようと思ったんでしょ。 浮気したり二股かけたりするように見える?」
「……見えないけど、でも目撃しちゃったし」
「あれは『妹』だから」
あわてて走ってきたのか、乱れた髪をさらに掻きながら修司が言う。
それが、ワイルドでちょっとカッコいいからたちが悪い。
でも、だまされないわ。
「幼馴染の私に、そんな見え透いた嘘つくわけ? 弟しかいないじゃない!」
「いや、だから……。そこんところ説明させてほしいんだけど」
「聞きたくない!」
「ちゃんと聞いて! あれは弟の和樹だから!」
「この期に及んでそんなこと言うの? ひどいよ」
「そんなに信用ないの? 信じてくれよ」
まっすぐに私を見つめる修司の顔は真剣そのもので、嘘をついているようには見えなかった。
確かに子供のころから修司は嘘が下手で、彼の嘘はすぐに見破れた。
「……わかった。話を聞くわ」
「よかったー。これが陽子の見た子でしょ? 子とかいうのもなんかおかしいけどさ……。よく見てよ。このほくろと口元。和樹でしょ?」
携帯に、昼間見たモデルのような女の子の写真があった。
柔らかいカールの髪にまつ毛の長いぱっりした目。しゅっとした鼻にぽってりとした唇がセクシーで……。でも、このパーツは修司にも似ている。そして、口元のほくろは、見紛うことなき修司の弟、和樹のトレードマークだった。
頭の中で、ふたりの影が一つに重なる。
「えっ……。う、うそっぉぉ!!」
よく見れば、修司の5つ年下の和くんだ。
「やっとわかってもらえた? 和樹、突然女装に目覚めちまったんだと。
もともと、美意識高いヤツだったけど、まさかここまで極めるとは、兄ながらびっくりだよ」
いちゃついてると思ったのも。大きな声で話すと男声だから、小声で話すためにちかよっていただけだとか。
私が、震える手でお別れの送ったメールはなんだったのよぉ。
「ねえ、浮気してると思った時に、取り返そうとは思ってくれなかったわけ?」
修司はホッとしたのか、いたずらっ子のように聞き返してくる。
「そ、そんな自信ないもの……」
「ふーん。こんな深夜に必死になって言い訳をしにきた俺を見ても、惚れられてると思えないの?」
「そ、それは……。コーヒーでも入れるよ。うん」
私は、修司のことを疑ったこととそれを気にしないかのようにのろけてくる彼の様子に恥ずかしくなり、逃げるようにキッチンへ向かう。
その背に、追い打ちをかけるように修司が言う。
「困ったね。じゃあ、これからどれだけ陽ちゃんのことが好きかじっくり説明させてもらいましょうか? 手取り足取り♪」
………… 最後の言葉は、聞かなかったことにしよう。
☆ E N D ☆
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