いつか伝えて(機械人形、博士)

 本日のお題は「人形」、甘い作品を創作しましょう。補助要素は「後輩」です。





   『いつか伝えて』



 わたしは、いつも『彼』を見ている。

 椅子に腰かけ、一日中あきることなく彼の仕事を眺めることが日課だ。

 眼鏡の奥の瞳は情熱を秘め、熱心に机に向かう白衣の背中は頼もしくも見える。


 ――― お願い。振り向いて。


 願いが通じるのか、時折、彼はそっとわたしに触れる。

 ガラス細工を扱うように、長い指で頤(おとがい)に手をかけられると、わたしはうっとりと見返すことしかできない。

 なのに……。

 わたしの金の髪が、さらさらと肩を滑り落ちても、

 わたしの青い目が、彼の瞳を見返しても、

 わたしの桜色の唇が言葉を紡いでも、

 彼の心はわたしのものに成りはしない。


 ずっと、ずっと見ているのに……。

 あなたのことが好きなのに、なぜ?

 

 *


「博士。最近、フローラの視線が熱い気がするのですが気のせいですか?」

「気のせいだろう? 特に、変わった追加のプログラムはインストールしていないよ」

 博士と呼ばれた眼鏡の男性は、少女の姿をしたアンドロイドの瞳を覗き込む。

「おはよう、フローラ」

 すると美しい人形は、ひとつ瞬きをすると笑顔で返事をした。

『おはようございます。博士』

 

 *

 

 今は、この気持ちを伝えるすべはないけれど、


 何代か後の『あなた』は、伝えられることを願っているわ。



・END・

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