涙のスパイス(青春、失恋、姉)

らんさんの本日のお題は「身長」、しょっぱい作品を創作しましょう。補助要素は「夜」です。


 『涙のスパイス』


「はあ、俺はなんて見る目がないんだろう……」

 ヒロキは、夕飯を残すほどショックを受け、『ごちそうさま』もそこそこに自室にこもった。

 部屋を真っ暗にしたまま枕に顔を押し付けると、今日の出来事が思い出された。

 ヒロキは、中学校内で1.2を争う美少女に恋心を抱いていた。

 ロングの黒髪をいつもさらさらと流し、微笑めばその辺のアイドルよりかわいい。

 うわさでは、何度もスカウトされたとも聞く。

 すれ違うといい匂いがするし、何度か笑いかけてくれたと思いドキドキしていた。

 だが、見かけと中身は大違いだったことを知ってしまった。

 たまたま、彼女がヒロキの悪口を言っているのを聞いてしまったのだ。

『あのチビなんでバスケ部にいるわけ? さっさとやめればいいのに。

 私のタクヤくんの周りをうろうろしないでほしいわ。

 目障りなのよねー。だいたい、あんなに背が低いのにバスケ部なんて足ひっぱるだけじゃない。

 いい迷惑だってわからないのかしら?』

 ガーン。だか、ゴーンだか、なにかしらの鈍器でたたかれたような鈍い音が響くのをヒロキは感じた。

 身長が低いのは、一番気にしていることだ。

 クラスでも、学年でも確かに一番背が低い。

 さらに、バスケ部の長身の中に入ればもっと小さく見えることは覚悟の上だ。

 ただ、バスケをすれば背が伸びると聞いたヒロキはこの2年死ぬ気で頑張った。

 相変わらず背はさして伸びないものの、レギュラーとして活躍できるまでになっている。

 背が低いことはハンデではない。素早さで優るヒロキは十分戦力だった。

 なのに……。

 憧れていた女子から、『チビ』『やめろ』『目障り』と一番聞きたくない言葉のコンボを浴びせられた。

 笑いかけられたというのも勘違い。同じ部活の先輩に向けたものだったことにも気づいてしまった。

「チビなのはしょうがないけどさ、勘違いしてたのと、見る目がなかったのだけは情けない……」

 ぐすぐすと鼻をすすっていると、二つ年上の姉サキがノックと同時に部屋に入ってきた。

「あーあ、やっぱりね。こんなことだろうと思ったわ」

 枕に突っ伏して泣いている弟にサキはため息交じりに声をかけた。

「夕飯食べてないから、お腹空くと思ってお夜食持ってきてあげたからね! なんて優しいお姉ちゃんと拝んでもよくってよ?」

「食べたくない……」

 ヒロキが言うと、姉がぺちっと後頭部を叩く。

「あんたねぇ。何があったか知らないけど、泣くくらいならやけ食いしなさい。その方が元気でるわ」

 んじゃね~と。サキはおにぎりを5つもおいて出て行った。

 しかたなく、一口たべると涙でしょっぱかった。

「こんなに食えるかよ。バカ姉ちゃん」

 そうはいったが、涙のスパイスがきいたのか腹が鳴り、姉がいうやけ食いも悪くないかとおにぎりを口いっぱいに頬張ってみた。


 ☆ E N D ☆


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