第6話 トマト凄い!

「ようこそ来てくれた、吾輩の畑へ!」


おい、なんだよこのおじさん。


俺たちの目の前にとんでもない人がいた。両目で眼帯をつけて、腕の全体に包帯が巻いて、まさに中二病の典型だった。


「かっこういい!」


「その腕、どうしたの? 何で眼帯が二枚もあるの?」


妹たちが感動しつつ、目がキラキラと輝いた。


「知りたいか、吾輩がまだ冒険者だった頃の話? 長くなるよ?」


「知りたい!」


「凄く知りたい!」


「なら、語ろう! 吾輩の名はサバスティアン・フォン・ギデゥルバーグ。高レベル冒険者だったが、ドラゴンにこの傷が与えた。それから、ずっと農業の道を歩いた」


早い!




「じゃ、その傷は本物なのか?」


よく考えると、これは異世界だ。俺たちだってゾウに襲われたことがある。ドラゴンだっていたら、不思議ではない。でも、俺の問いに、サバスティアンは首を傾げる。


「本物な訳ないじゃないか? 頭、大丈夫か?」


「お前にだけは言われたくない!」




俺はため息をついて、頭を冷やした。


「ギルドの依頼を受けて、ここに来たけど、具体的にどうすればいいのか?」


「そうだよね、本当に助かる。農業ってつまらなくて、冒険の方が金になると思う人が多いから、人手が足りないな。ギルドから聞いたけど、お前らはまだ初心者だよね? 先ずは魔法の基本を覚えなきゃいけない。農業といえば魔法! 魔法といえば農業!」


突っ込みたい所がいくつあるけど、とにかく、やっと魔法を覚えるね! さすが異世界だ!




「じゃ、お前らの魔法属性は何だ?」


センは決めポーズを取った。


「私は水魔法の使い手で、冒険者レベル2だ!」


「俺の属性は土魔法みたいだけど、魔法を使ったことがないから、よく分からない。それで、ハナは……」


「えーと、魔法の才能はないみたい……」


ハナは目を逸らした。


「それでも問題ない。安心して! 収穫の方を手伝ってけれたらいいんだ。他の二人は吾輩が魔法の正しい使い方を教えてあげる。よく見てくれ」


と、サバスティアンは左の眼帯を外した。


「魔法を使う時に眼帯の封印を解くよね? なるほど、なるほど」


センが憧れの目で見つめていた。


「いや、こうしないと何も見えないから」


「そうだよね」


センはがっかりして、顔を伏せた。




「では、始めよう! 【プルプルプルリン、トマトが食べたい】!」


その詠唱、すごく恥ずかしいけど⁈


そう思うと、俺たちの周りにトマトが一瞬で生えた。


「すごい!」


俺だって感動した。その痛々しい言葉だけで、こんなにトマトが生えたとは。前の世界では絶対に不可能だったけど、この世界では何だって可能だ。少なくとも、その気がした。




サバスティアンはトマトを手に取って、俺に投げた。


「あああぁぁあ! 目が! 目が!」


そう、俺の顔はトマトジュースにまみれた。


「何でトマトなんて投げたんだんだよ⁈ ふざけんな!」


「冒険者にとってトマトはとても大事だよ。これは第一の授業から、よく聞け。もし、お前がモンスターだったら、トマトのにおいに耐えられなくて、逃げたのだろう。トマトはモンスターの天敵だ。だから冒険者にとってトマトは大事な道具である」


「本当に? トマト凄い!」


と、センがトマトを手にした。


「ちなみに、先のお嬢ちゃんはどうした? お前には双子がいたよね?」


フッと気づいたけど、ハナはどこにも見当たらない。


トマトって、凄まじい。


「き、きっと、トイレにいただけで、すぐに戻るだろう……」


俺は全力で誤魔化そうとした。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る