第4話 おっぱいさんは天使だ!
外から、ひどい音がした。まるでゴリラの群れがショパンを弾こうとしたその音は耳に響いた。もうはや、現実から逃げられない。
「それじゃー、話をまとめまして」
俺たちは巨乳お姉さんの言葉に甘えて、雨宿り、じゃなくて、ピアノ宿りをした。それでやっと落ち着いて、この状況を冷静に判断した。
「俺たちは死んでいるけど、異世界に転生したから、なんとなく死んでいない気もするけど、本当は元の世界の俺たちはピアノに殺された。でも、それだけではない。お前二人の中には、千花の顔を被った恐ろしい化け物がいるかもしれない。それでいいよね」
「はい」
「どうやら、そうみたいね」
じゃ、そうと決まったら……。
[[[ああああああああぁぁぁぁぁぁ!]]]
「少しは静かにしなさいよ! 他の客様に迷惑でしょう? まあ、今は他の客様いませんけど、いませんけど、いま……。」
巨乳お姉さんの顔が暗くなって、泣きそうだった。
「ああ、おっぱいさん、すみません!」
「この宿は綺麗で、素敵だと思います。広いお風呂もあって、助かりました。おっぱいさんに大変感謝しています!」
センとハナは純粋にお姉さんを慰めようとしただろうけど、なんだよ、その呼び方?
「私はちゃんとオパールという名前があるんですよ! おっぱいじゃなくて、 オ パ ― ル!」
「でも、センとハナの言う通り、本当に助かりましたよ。おっぱいさんがいなければ、またピアノに殺されそうでした」
この訳の分からない世界に優しい人がいた。それだけで、ちょっと安心して、この世界にちゃんと生きていけるかも知れないって、希望が与えてくれた。感謝しなきゃな。
「おっぱいさん、本当に心からありがとうございます」
オパールは深いため息をついた。
「感謝しているなら、ちゃんと名前で呼んでくれませんか?」
それを無視して、俺は続く。
「この恩、どう返せばいいんですか?」
「普通に金を払えばいいんですよ! こっちは宿ですから」
そうか。そうだよね。
俺はポケットから財布を取り出した。
「7000円しか持っていないけど、それでもよろしければ」
「何ですか、この紙?」
そうか。そうだよね。異世界だしね。こうなると、それしかないよね。
俺は土下座をした。
「すみません。金がないんです。何でもしますから、ここにいさせてください」
「やはりそうですか」
やはりとはなんだ⁈
「仕方ないんですね。ちょっと掃除とか手伝ったら、別に泊まってもいいけど、うちも金持ちじゃないから、食事は自分で何とかしてください。今日は特別にサービスしてあげるけど、明日からはギルドに行って、仕事を探すことですね。働かず者食うべからず」
「天使だ! 天使がいる」
「いや、女神だ! おっぱいの女神だ!」
センとハナも土下座をして、訳のわからないことを言い続けた。
「早速だけど、ピアノが降り止んだみたいです。外の掃除を手伝ってくださいね」
うん、そうか。そこが狙いだったか。
外に出ると、ありえない数の壊れたピアノがあちこちに広がていた。意外なことだが、周りの建物は無傷だった。見た目以上、頑丈にできているのだろう。町の住民が何もなかったみたいにピアノの破片を拾っていた。
「みんな平然な顔しているよね。これは本当に普通なのか?」
「少なくとも、この町では普通ですよね。古い伝説によると、私のご先祖様が魔女を怒らせたんですよ。それから、ずっとピアノが降り続けました」
「そのご先祖様、一体何をしたのだろう?」
オパールが目をそらした。
「え、えーと、大事なものを盗んだみたいです」
あ、そうか。それで怒らせちゃったか?
「ちなみに、その大事なものとは?」
「パ、パンツです」
ふざけんな!
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