第3話 ピアノを嫌いになった訳

 「ゾウさん、かわいくない。全然かわいくない」


 「あの鼻……私たちを捕まえようとしたあの長い鼻……悪魔の鼻だよ」


 何とか逃げ切ったけど、深い精神的な傷が残て、妹たちが死んだ目でそう呟いた。無理もない話だ。正直に言うと、あの長い鼻が俺にも一生忘れられないトラウマを植え付けて、夢に出そう。そんな俺たちがトラウマを背負って、ひたすら前に歩いていた。その時だった。




 「あ、旅人ですか? ようこそ、ベルクの町へ!」


 「セン、ハナ、お兄ちゃんもう、ダメかもしれない。俺は今、すごい幻覚を見ているよ」


 「私もダメかも。なんて巨乳な幻覚だ、このお姉さん」


 「幻覚の分際がこんなに巨乳だなんて不公平だろう? 私たちだって毎日牛乳を飲んで、ちゃんと頑張っているのに、幻覚に負けてたまるか⁈」


 幻覚のお姉さんが困惑して、無理に笑った。


 「えと、私、幻覚じゃないんですよ?」


 「そのはずはない!」


 センは近づいて、お姉さんを上から下までマジマジと見つめていた。それで、両手で胸を掴んだ。


 「本物だ」


 「あああああぁぁぁ! いきなり何をしてるんですか⁉」


 お姉さんの顔が赤くなった。




 待って、このお姉さんが幻覚じゃないなら、もしかしたら……。


 「この町も、本物なのか?」


 「もちろん、本物ですよ! あなたたち、何でそんなに人を疑っているのですか?」


 「はい、家族会議!」 




 巨乳お姉さんから離れて、木の下でしゃがみ込んだ。


 「ね、よく見るとあの町、ファンタジー過ぎない?」


 「うんうん、ファンタジー過ぎて、超陳腐だよね。私もそう思った」


 「センの言う通り、すごく陳腐だ」


 「いや、そうだけど、そうじゃない!」


 ベルクの町って一体どこだよ? 少なくとも、日本ではない。




 「ね、あなたたち、もうすぐピアノが降りそうだから、私についてきてください。最近、客が少ないのでうちの宿に泊またら、お安くしときますよ!」


 ここはどこであろうと、今は泥まみれなので、とにかくお風呂に入りたいな。


 「ああ、わざわざすみません。実は宿泊に困ってて……。待って、今、何て?」


 「お安くしときますよ!」


 「いや、その前に」


 「最近、客がなかなか来てくれません」


 「いや、そうじゃなくて、ピアノが降りそうって言ったよね⁈」


 「はい、ピアノが降りそうだから、宿に泊まった方がいいと思います。雨季は大変ですよね」


 お姉さんがそう言うと、空に指を指した。


 「ほら、もう降り始めたんですよ」




 俺たちの隣に、ピアノが空から落ちた。その時、すべてを思い出した。


 「ね、お兄ちゃん、私達って、死んでいるよね」


 「そうみたいだ」


 「そうか」


 「あああああああぁぁぁぁぁぁ!」


 「ああああああぁぁぁぁぁ!」


 俺は童貞のまま、死んだ? 悲しい過ぎるんだろう⁈


 「あなたたち、何馬鹿なことを言っているのですか? ちゃんと生きていますよ! 死にたくなければ、こちに来なさい!」

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