第2話 どっちでもいい

「先から変なことばかり起こるんだから、シンプルに行こう」


そう、どっちの妹が本物かどっちが偽物かを問わずに。


「単に妹が増えたことにしよう。そうしたら、深く考える必要もないじゃないか? いいアイデアと思うけど、どう? 双子ができてよかったね!」


[[良くない!]]


「まあ、とりあえず、こうしよう」


俺は妹2号に指を指した。


「ちょっと髪を下ろしてくれないか? 今のままじゃ全く区別できないからね」


「何で私だけが髪形を変えなきゃいけないの? 私を疑ってるの?」


「いや、髪を下ろしたら結構かわいいなと思ったからさ」


急に妹2号の顔が明るくなった。


「今すぐ下ろす!」


ちょろい。


妹2号はリボンを外して、「褒めて欲しい」と言わんばかりに期待の目で俺を見ていた。確かに、こう見ると意外とかわいい。普段髪をアップにするせいで気づけなかったけど、その長い金髪は綺麗な。なんとなく分かったけど、俺の妹って美人だったか?


「うん、やっぱかわいい」


「私も髪を下ろすね!」


そう言って妹1号は慌ててリボンを外そうとした。


「お前も髪を下ろしたら意味ないじゃん⁈」


「そうか」


「まずは、この洞窟から出よう。出口はこっちみたいだ」


洞窟のわずかな光に導て出口を見つけたけど、出たら森の中にいた。まあ、暗い洞窟に比べては全然マシだけど、まだ完全に迷てる。


「ね、千花」


[[はい]]


面倒くさい。


「そうだよね。今のままじゃ不便だから偽物を見つかるまではあだ名をつけよう」


妹1号に指を指した。


「これから、お前はセン」


妹2号に指を指した。


「お前はハナ。いいか?」


「センか? 別いいけど、私が本物だって証明するまではね」


ハナはニヤニヤして、センの方を見る。


「ツンデレだよね。本当はあだ名をつけるのがちょっと恋人ぽくて嬉しいだろう?」


「何で分かる⁈」


「私もそうだから!」


二人の会話を聞いていると、フッと気づいたけど……。


「お前ら、ブラコンなのか?」


[[気づくのが遅い!]]


妹たちが不満そうにそっぽを向いた。


「ラノベ主人公か? この鈍いお兄ちゃん」


「いや、それ以上かも。これはウェブ小説の主人公レべレの鈍さだよ」


「そうかも! 分かるんじゃないか、ハナ」


「君もいいやつかも知れないな、セン」


何でいきなりそんなに仲良くなったかよ⁈


そう思うと突然、何か変な音が聞こえた。


「ちょっと静かにして、何か聞こえるよ」


「あ、私も」


「私も。足音かな?」


「いや、足音にしては大きすぎないか?」


俺の反論を聞いて、ハナは「分かった」と手を打った。


「きっと、ゾウさんが来るんだよ!」


はい、馬鹿がいる。


「これはまだ日本だよね? ゾウが森の中にいてたまるか⁈」


「ちょっと、みんな、この音が近づいていない? ドンドン大きくなるし……」


センの言う通り、この音が近づいている。でも、一体何、この音? 確かなのはゾウじゃない何かがこっちに向かていること。それと、その何かが大きくて、危ないかもしれない。俺は心に決めた、何であろうと妹たちは絶対に守るって。


「みんな、下がって、俺の後ろに」


一度言ってみたかったよね、そういうアニメにしか聞こえないかっこよ過ぎて痛くなるセリフ。そんな格好つけたセリフを言った俺が馬鹿だった。


森の奥からとてつもない物が出た。


「ゾウじゃねーか⁈ 何でゾウが⁈」


ゾウって言ったけど、ちょっと違う様な気がする。俺は決してゾウ専門の生物学者ではないのだが、ゾウっていうのは、2本足で歩く動物だったのか?


「ゾウさんだ!」


「かわいい!」


「いや、ちょっと驚けよ! 俺が馬鹿なのか? これは普通なのか?」


俺の文句を無視して、妹たちがゾウに近づいて行く。


「偉い偉い! 2本足で歩いているよ!」


「どこかのサーカスから逃げ出したかもね」


まあ、それなら説明がつくけど、それでも怪しい過ぎる。


「イイニオイ」


「気づいてくれた? お兄ちゃんたら鈍いところあるから気づけないと思った! 実はこの前、いつもと違う香水を買ったね。それで……」


「いや、セン。俺は何も言ってないぞ」


「ニンゲン、イイニオイ」


やっぱ違うよね。うむ、何もかもが完全に違う。


「ゾウが喋った!」


「逃げて!」

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