第四章(3)以洋、またもや乗っ取られる
滅多にないような頭痛をこらえながら帰宅した
「ええと……冬至はと……、まだ二日余裕があるし……だったら明日買い忘れなければ」
時計に目をやると、そろそろ夕飯を作り始めるべき時間だ。
警察学校での講習で毎日、署と学校とを行ったり来たりしなければならない上、空いた時間では
夕飯を作り終えて
ソファに座ってニュースを見るが、このところそんなに大きな事件は起きていないらしい。
立法委員会でいつも通り議員が罵り合っている他は、水道管から出られなくなってしまった子猫が消防隊に無事救出されましたとか、誰々さん宅のワンちゃんが珍しい子犬を生みましたとかの退屈なニュースばかりで思わず欠伸が漏れる。
家の中は静まり返っているし、午後は頭痛に悩まされた後だ。知らず知らずのうちに
――――……それから十分経たずに、また
「俺を追い払う力があるってんなら追いだしてみな」
笑い声を立てた
「ふ~ん、お巡りにしてはいい家に住んでんじゃん」
台所では
「このガキ、マジでいい奥さんになれるぜ」
今のうちにここから出ていこうか、それとももう少しこの家の中を探検してみるか、まだ
「ごめん、遅くなっ、て……」
午後に電話してきて、僕は大丈夫だからとそう報告したばかりじゃないか。だからてっきり
僅か一日で解決して
「そんなに違ってるか?」
「顔も身体も別にこいつのままだろ?」
「君はいったい何がしたいんだ? あの子はとても善良ないい子なんだ。これ以上こんな風につきまとわないでやってくれ」
真面目な顔でそう告げた
「善良ないい子? 善良さがなんの役に立つってんだ。多少ワルな方が世の中上手く渡っていけるって、さっさと教えてやれよ。人が好過ぎる奴なんて食い物にされるだけだぜ」
「君みたいに?」
真っ向から
この死者が
「あんた、俺がそんなにいい奴っぽく見えるのかよ?」
笑ってそう答えた
「この子の身体を奪い取ったところで、この子の人生まで君の手に入るわけじゃない。それはわかってるのか?」
「それはつまり、あんたが俺のものになるわけじゃないのと同じようにってことか? あんた、こいつでなきゃダメなわけ?」
「ああ。俺は別に誰も欲しいわけじゃない。それでも、もし誰かを俺が求めるなら、それはこの子だけだ」
あっさりとそう認めた
「なら、心の準備をしとけよ。一生こいつがお前の手に入らないって覚悟をな!」
陰惨な眼差しが
子供っぽく口を尖らせている時など、可愛すぎてそのまま食べてしまいたくなるレベルだ。そんな
既にこの世を去った親族の手で命を奪われかけた時も、台湾大学の女生徒を殺して首なし幽霊にした犯人を見つけ出した時も、
いつだって
そんな
それでもこういった事態が起こっている時に
「君がこの子のどこを憎んでいるのはわからないが、この子は決して君が思っているような順風満帆のただ愛されるだけの人生を歩んできた子じゃないよ」
「それは俺の知ったこっちゃねえよ。俺の見る限り、こいつはもう充分幸せそうじゃねえか」
「それはこの子がもともと持っている善良さや明るい性格があったからこそ得られた環境だよ。君とは全く違う。君は自分の人生を変えるために何をしてきた? 君を育ててくれた母親にその恩を返したのか?」
「てめえに何がわかるんだよ! 俺にそんなこと言う資格がてめえにあんのか!」
「俺が何もわかってないと言うんなら、君は俺にわかるように話すべきだ。無実の罪を着せられたなら、君はそれを晴らす方法を考えるべきだったのに、責任を負う勇気もなかった。ただ自殺して自分の家族の心に傷を残し、君を陥れた相手の思い通りの結末をもたらしただけだ。それどころか、本来恨みを晴らすべき相手のところに向かいもせず、人の好い相手を見つけて迷惑を掛けている。君は君を傷付けた人間と何が違うんだ?」
一欠片の容赦もなく言い放たれた
「確かにな。俺は俺をこんな目に合わせた奴と何も変わらねえよ。あいつのせいで俺はこんな人間になった挙げ句、何にも手に入れられなかったんだからな」
俯いた
「これでどうだ? あんたがそこまでこいつを好きならそれに免じてやるよ。あんたが俺と一発ヤったら、俺はこいつから離れてやる。一挙両得だろ? こいつのことをそんなに好きならあんたにとって損はないよな? こいつにしたってそんだけあんたを好きなら嫌がる理由は何もないだろ?」
眉間に皺を寄せ、
「君が傍に立って見ているということなら、彼とするところを君に見せることはできるが」
「いいさ。本気でこいつ以外とは無理だってんなら仕方ない。俺も別な相手を探すぜ。惚れた相手の身体が他の男に玩具にされてるところを、あんたがその目で直視できるかどうか見てやるよ」
そう言い捨てて身を翻した
「なんだよ? 気が変わった?」
嘲笑う
「君を閉じ込めておくことは俺にもできるんだよ」
「開けやがれ!」
力いっぱいドアが叩かれる。その音を聞きながら、
首を横に振りつつ向かった台所には、
まずはこれを食べ、その後、
ふと、それが止む。そして、誰かが倒れたような音がした。
慌てて
頭をぶつけたのかも知れない。今朝、自分が殴った頬の腫れもまだ完全には退いていないのに、この上また頭を打つなんて。顔を顰めた
「
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