トラック42

 「準備は整ったな」


 「え、ええ……でも、マジでやるんすか?」


 『準備はいいか野郎共ッ!』


 くっぴーはもうハイになってしまっている。今食べてるラムネが本当の薬物のようにも思えて来た。


 オレは、くっぴーにボードを借りる。


 『ロックってのは、今この時が楽しいと思える事を全力でする事。それがロックらしいぞ』


 さっき、ゆらさんにすれ違い様に「テメエら、最高のロッカーだな」と、そう言われた。


 そう書かれたボードを見ると、二人はうんうんと首を縦に振る。


 オレはつまみをスライドさせ、新たな文字を書いていく。


 『今、楽しいか?』


 くっぴーは当たり前だ! と言わんばかりに拳を突き出す。


 部長はというと、「お前らに任せる」なんて言いながら、自分の曲を披露したいのか、手が勝手に小刻みにドラムを奏でていた。


 どうして、イタズラをする直前はこう、ドキドキするんだろう。


 『オレも、なんか楽しい気がする』


 くっぴーが拳を突き出すと、三人がそれを合わせた。


 外は真っ暗で、ライトもなけりゃ、舞台もないこのステージの真ん中なのに、くっぴーと部長のニヤケ面がよく見える。


 「やろうぜ」


 そうオレが呟くと、三人同時に首を縦に振った。

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