トラック39

 一発目を飾るのは、それなりの知名度を持っているバンドの方がいい。それに何より、先に走るヤツをぶち抜くほうが痺れるだろ? だから、最初は不協和音だ。というゆらさんのアイデアにより、先攻は不協和音となった。


 「あいつ等が一曲、お前等ガラクタ・ロッカーズが一曲、残りはウチらだ。これはもう決定事項だからな、勝手なアドリブいれんじゃねぇぞ? 殺すぞ? というか、テメエらがウチらのファンに殺されるぞ?」


 笑顔で恐ろしい事を仰る。


 「でもまぁ、安心して演奏してこい。どんだけテメエらが盛り下げても、ウチらが最高に盛り上げてやっからよ! ハッハッハ!!」


 そう言ってゆらさんは心の底から楽しそうに笑うと、


 ドォンッ! と畳みかけるようなドラムの低温が鳴り響く。それに続くようにベースの低音が幾重にも重なり、重低音が生まれ、とてつもない音の圧力が観客の体をビリビリと震わせる。


 そんな凄まじい音の圧力の中に、ノイズのしゃがれたボーカルが混じり合う。


 会場は爆発したかのように全員が踊り狂う。


 祟姉妹ファンだらけの、この完全アウェーな会場でもしっかり盛り上げることのできるコイツ等の腕前は本物なのだろう。認めないといけない部分が多々あるのが悔しい。


 「おっ、やるな」


 ゆらさんが舞台袖から不協和音の演奏を見て腕を組みながら軽くうなずいている。


 確かにオレみたいな素人でも、憎たらしいけど上手いと思った。


 横に立つくっぴーも、頬を歪ませながら、嫉妬に狂ったような目で、手にしたプラスチックマイクを握り締めながら、舞台で歌い、演奏する三人を見つめているようだった。


 「それにしても、凄い人の数だな」


 部長は、会場の盛り上がりようを見て、ボソっと呟く。


 部長曰く、会場の外ではチケットを取れずに入れなかったファンが、音漏れを聴こうと詰めかけているようだ。


 「そろそろだな。おいテメエら、もうスグなんだから準備を……って、出来てるのか。やる気満々だな!」


 確かに緊張はしていたし、体は震え、手はカチンコチンに冷えていたが、怒濤のリズムで最初のサビを終えた不協和音の演奏を見て、緊張よりも、さっさとあの舞台に立たせろ。という気持ちの方が強くなっていた。


 成功する保証なんてない。練習すらしていない。でも、くっぴーの浮かべるギラギラした瞳を見ていると、成功するという自信が沸々と湧きあがった。


 オレはチリトリを強く握り締め、マックは両脇にポリバケツを抱えて、なんとも言えない、ゴミの清掃員のような集団になっているが、くっぴーに関しては、クラウチングスタートの姿勢で、いつでもいけますと言わんばかりに構えている。


 ああ、あいつ等の曲の三分が煩わしい。さっさと出させろ。


 緊張が武者震いに変わる瞬間を確かにこの時感じた。

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