トラック38
開始十分前。
会場内の空気はすでに汗と熱気で煙っており、今か今かと待ちわびた観客の足踏みが地鳴りのように響く。待ちきれないのか、「ゆらさ――――ん!」「百合様――――ッ!」とコールを始める人も現れ、中には、「うおお――――ッ!!」と感極まって、絶叫し始める人もいる。
フロアは今日の主役を待ちかねて大盛り上がりのようだ。
そして、
――ギュアァァアアアアン!!
ゆらさんのギターサウンドが会場を満たすと、たったそれだけのことで、会場が揺れるほどの歓声が沸き起こった。
「テメエらぁぁああッ! 今日は、ウチらのライブに集まってくれて、ありがとなッ!!」
照明の当たっていない、真っ暗な会場からゆらさんの大声が響く。
それに答えるように、会場が歓声で溢れかえる。
バンッ! と音がして、舞台に七色のスポットライトが灯ると、祟姉妹の二人の姿があらわとなり、二人の頬を伝う汗がきらめく。
「それじゃぁ、一発目からブッ飛ばして行くぜ――――ッ! テメエら、最後までついて来いよ――――ッ!!」
ゆらさんの煽りに歓声がわっと湧きあがる。それに対して二人が弾けるように笑った。
「うっし、そんじゃ行くぜ――――ッ!!!! と、言いたい所だけど……」
ゆらさんの意味深な言葉に会場が一気に静まり返る。
「今日、ウチらのワンマンって言ってたんだけど、先に謝る。悪い!」
どよめく会場。しかし、
「……ごめんね」
百合様がぼそっとつぶやき謝ると、会場は一気に静まり、静寂が満たした。
「今日、実は紹介したいバンドがいるんだ。二人ほど。そいつらの演奏、聞いてやってくんねえかな? ウチら、結構そいつら推してるんだよね」
会場からは「え――――」や、「誰だよ……」などと言った、落胆の声も聞こえる中、それでも「うぉおおお!!」と言った、任せろ! と言わんばかりの歓声が多数をしめている。
「一つ目は、まぁ結構有名だな。不協和音だ! ヤツらに、ウチらのバンドが食えるかどうか、試させてみたいんだ! みんな、いいかな?」
ゆらさんの煽りに会場からは野太い声で「やってみろぉおおおお!」と声援が送られている。
「で、もう一つが、新人も新人、ライブなんて今日が初めてなんで心配なんだけど……ガラクタ・ロッカーズ! コイツら、覚えてやってほしい」
突如無名のバンド名が発表され、またしても会場がどよめく。
「……だいじょうぶ。ロックンローラーだから」
百合様のつぶやきに会場が一瞬静まりかえると、
「たのしみですぅッ! ひゃぅん」と、黄色い声援が送られた。
「それぞれ持ち曲は一曲ずつ。計二曲しか時間は使わせねえ! その後、ウチらが休憩、MCのブレイクなしで最初から最後まで全力で突っ走る! だから、その二人の演奏、許してやってくんねえかな? 頼む!」
ゆらさんが両手を合わせると、会場にいる全員が、親指を立てて拳を天に向けて突き上げた。
最高のライブっていうのは、観客と共に作り上げるもの。
そう考えると、この祟姉妹が作るライブというのは最高のモノで間違いないだろう。
この最高のライブを潰さないためにも、オレ達は絶対に成功させないとならない。
舞台袖から、無言で見つめていたが、ここにいる誰もがそう感じたことだろう。
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