トラック34
「……おい」
ここを、こうして、そんでから……。
「おいって!」
「へ?」
気がつくと後ろから部長に声をかけられていた。
「何してんだ?」
「あ、ああ、えっとオレだけやる事ないなぁなんて思って、今度のライブを宣伝するように、ブログをイジッたりしてたんすよ」
部長は「ふぅん」なんて言いながら、後ろからオレのパソコンの画面をマジマジと見ている。画面には、作成中のブログ記事が並んでいた。
「そんな事やってたんだ。へぇ、作成者maluoって、チャットのIDと一緒……ん?」
部長は顎に手を置いて、何か真剣に考えると、頭に電撃が走ったのか、スグに自分の席に戻り、パソコンを叩く。そして、
「おいおいおいおい! これ、もしかして、チリトリのブログか!?」
部長がノートパソコンを抱えてオレの横に置くと、そこには、maluoの応援ブログ。というブログが表示されていた。
「ええ、そうっすけど……それが何か?」
「何かってお前! まさか、maluoがお前だっただなんて……」
確かに、ネット界ではちょっとした有名人になっている。
マルメロがまだ無名だった頃に、オレは熱烈な応援メッセージを記したブログを書き続けていた。
マルメロを人気にしたい。頑張ってる少女達に日の光を浴びせてあげたい。
その一心で、一日に百件近くのブログを書き、常に更新状態を維持して人目がつくようにした結果、一日のアクセス数が伸びに伸び、気がつけばブログトップランキングの項目に一時期、芸能人と並び、ちょっとした祭りになった。
その結果、マルメロに注目する人が出だした。
オレがやったのは、その程度のこと。ちょっと人気が出たお手伝いをした程度のことだ。
「ちょっとどころじゃないぞ! お前、ネットの噂ではお前に応援されたグループは売れるだなんて言われてるんだぞ!」
「そんな、大げさっすよ! まったく、やめてくださいよ。だいたい、マルメロが本当の実力者だから売れたんであって、オレ、別になんもしてないんすから」
部長は頭を抱える。
「でも、今度のライブは成功させてあげたいんすよね」
オレは書きかけのブログを書きながら喋る。
「なんか、くっぴー見てたら、公園で一心不乱に頑張ってた時代の天野ほえちゃん思い出したりして、ああ、やっぱ頑張ってる人っていいなぁなんて思って、だから成功させてやりたいんすよね。ま、オレみたいな一高校生が出来る事なんてこの程度っすけど」
そう言って、エンターをクリック。ブログが更新された。
「そうだな。アイツには、俺も、親も、何をするにもダメだしか言わなかったしな……」
そう言う部長の表情は、どこか何かを詫びるような表情で、
「そうだ、今度のライブ終わったら、成功したとか、失敗したとか関係なく、マルメロのリハーサル連れてってもらえるよう頼んでやるよ。これは約束だ」
「マジっすか!」
勢い良く立ち上がるオレに、部長は「あ、ああ」と、引き気味に返事する。
「うおおおお! マジかよ、そんな……嘘だろ、来たか、ついに来たか!」
「落ち着けって」
「いやいやいやいや、そっかぁ、そっかそっかぁ! フフフ」
もう笑いが止まらん。
「とにかく、今日はもう帰ろうぜ。暗くなってきたし」
「そうっすね。フフフ、帰りましょう! 帰って、チリトリ振るかぁッ!」
ラーラララーなんて言いながら、オレは回ったり、踊ったりしながら帰途につき、夜空に輝く星を眺め、「待っててね!」なんて叫びながら帰っていると、犬の散歩してるおじさんから「うるせぇぞ!」なんて怒鳴られた。
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