トラック31

 ピンポーン。


 透き通るようなインターホンの音が鳴る。


 『はい、どちら』


 インターホンの向こうからぶっきらぼうな声が響く。


 良かった、部長のようだ。


 「あ、オレっす!」


 『はぁ? オレオレ詐欺?』


 「チリトリっす!」


 『ああ、はいはい、ちょっと待って』


 クソめんどくせえな。声で分かるだろ。


 ガチャリとカギが開く音がすると、部長が現れる。


 「なに? こんな時間に」


 腕時計に目をやると、確かに時刻は九時を示していた。良い子のみんなならおネムの時間だ。


 「ああ、えっと……くっぴーに少しだけ話しがあって……」


 「なに? 告白でもすんの?」


 「しませんよ!」


 実の兄なんだよな? なんだってこんなにこの兄は自由恋愛を認めてるんだよ。


 「ちょっと待ってて」


 そう言って、家の中に戻り、スグにくっぴーを連れて家から出てきた。


 くっぴーはロックンロールだのなんだの言ってる割には良い子だったのか、もう寝るつもりだったらしく、オレンジの水玉模様のパジャマ姿に、三角のサンタクロースの帽子みたいなものを被って、ボードを首から下げていた。


 そんな、あまりに女子女子した姿にちょっとトキめいたり、なかったり……。


 「親が、十一時に帰って来るから、それまでに家に帰らせて。じゃないと、今度は多分刺される」


 「任せてください スグ済みます!」


 「流石、童貞だしね」


 「なにが!?」


 部長は「クックック」なんてマッドサイエンティストみたいな笑い方をしながら家に戻っていった。

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