トラック28
翌日。
天気は気持ちを表したかのように厚い雲に覆われ、ようやく梅雨らしい天気を迎えてはいたが、この薄暗い空が少しうとましく思えた。
じめじめとした空気が肌にまとわりつき、鬱陶しい。
「……こんちわ」
いつもと同じテンションで行こう!
そう決めていたのに、そんな意思とは裏腹にどこか覇気のない声で部室のトビラを開けてしまう。
部室には部長がいつも通りスピーカーを弄って、特に挨拶するでもなく片手を上げると、そのまま機械に集中。オレはライブDVDに集中するが、ちっとも頭に入って来なかった。
そのままダラダラとした時間は過ぎ去り、結局、その日くっぴーが部室に顔を出す事はなかった。
「お疲れさまっす……」
外は、嫌な分厚い雲を残したまま暗くなり、廊下に出てみると前が見えないほど真っ暗になっていた。
ギシギシとなる床に、この景色、完全にホラーだな。なんて思う余裕もなく、頭の中は昨日の出来事でいっぱいだった。
別にロックに思いがあるわけでもないし、ライブを壊されたからってなんとも思わないと思っていたのに、イライラが収まらない。あのノイズってやろうがムカついてしかたがない。
「クソッ!」
振り上げた拳を廊下の壁に振り下ろすと、焼けるように熱い痛みが拳を覆った。
こんなに怒りをモノにぶつけたのは人生で二度目だ。
一度目は、まだマルメロが公園で路上ライブを始め、必死にメジャーデビューを目指して切磋琢磨努力していた時に、近くを通りかかった人にバカにされた時、関係ないけど、悔しくて、帰りに近くの壁をぶん殴った。
そして今回。
くっぴーがせっかくやる気を見せたのに、『わたしには不可能な事が多過ぎる』そんなくっぴーが、楽しそうに歌えない自分を変えようと切磋琢磨したのに、バカにされた。
気がつくと、くっぴーの事で頭がいっぱいになっていた。
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