トラック25
コンコン。
丁度出来損ないのターミネーターに変身し終えたタイミングで二度トビラをノックされる。
ああ、着替えを覗いちゃ行けない。なんてそういったデリカシーはちゃんと持ってるんだな、なんて思いつつ、
「はいよ、着替えたぞぉ」
なんて言いながら、返事が聞こえないくっぴーのために重い鉄扉をオレから開けてやると、
「テメエか? チリトリってのは」
目の前に、デカイ女が立っていた。
デカイと言っても、立てに大きくて、スラットしてて……ジーンズと黒のタンクトップと肌があらわになり過ぎる格好だけど色気とかなく、むしろ格好よく着こなした女性が腕を組んで仁王立ちしていた。
「えっと、祟、姉妹? さんですよね?」
一目でそうだと分かった。
こないだのライブで、圧倒的存在感を醸し出していた女性ギタリストで、皆からゆらさんと声援を受けていた人だと。
「ふぅん。格好だけはいっちょまえなんだな」
手をアゴの下に起きながら、オレの全身を品打する市場のおじさんのようにまじまじと見回す。
「ロッカーだな。テメエ」
そう言って、キリッと見る物を威圧するかのような表情を崩して笑顔になり、オレの肩をギュッと強く握った。
「しっかし、潰しで有名な不協和音の対バンなんてする奴らがいるって聞いたから来てたけど、これはとんだトリモチ苦労だな。ガッハッハ!」
そう言ってゆらさんは腰に手を当てて、オジさんのように声高々に笑う。
「……姉さん、取り越し苦労です……」
「ああ? そうだっけか。ま、いいじゃん」
小さくも響く声がして、ゆらさんの後ろを覗き込むと、まぁこんなクソ暑い時期になんの苦行だよ。と思わんばかりの、真っ黒のメイド服姿の女の子が立っていた。
この子も一目で、祟姉妹でボーカルをしてた百合様と呼ばれていた子だと分かった。
その横で、くっぴーは目をもう、キラキラなんて音が聞こえそうなほど輝かせながら、両拳をアゴの下に置いたぶりっ子のポーズでゆり様の横顔を、隣の席の思い人を見つめるように凝視していた。
「んじゃ、まぁ頑張れよッ! 少年」
そう言って肩をバシバシと叩くと、颯爽と去って行く。それに続くように百合様と呼ばれる少女が、軽くオレにお辞儀をしてから、振り返り、くっぴーにもお辞儀をして、小走りで姉の背中にぴったりとくっついていった。
「なんだ、ありゃ?」
突然すぎる威圧感に圧倒され、何も言えなかったが、この世界じゃ有名な人に応援されることを少し快く思って、頑張ろう。だなんて柄にもなく思ったり思わなかったり……。
『なんて言ってたの!?』
ふと目線を落とすと、依然輝かしい瞳をウルウルとさせながらオレに向けて、ボードを示す。
そんなボードを受け取り、
『頑張れって、応援してくれた』
と書くと、くっぴーはボードを抱きしめ頬ずりし、誰もいない祟姉妹が過ぎ去った廊下にお辞儀をし、
『頑張ろうな!』
と書いて、親指をグッと立てた。
「ん~、そうだな。一応頑張りますか」
なんて言いながらも、オレはくっぴーに親指を立てて返事をしていた。
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