トラック24

 「ヤだよ!」


 『いいから着ろ!』


 「絶対イヤだからな!」


 『いいから!』


 マックに機材の準備の全てを託したあと、オレたちは用意された控え室とやらに案内された。控え室と呼ぶにはただの物置部屋みたいな場所で、あちこちに音響の機材のようなものが積まれていて、部室のような現状になっている。


 そんな中、緊張しながら適当に置かれていた丸イスに座って、軽く貧乏ゆすりしながら待っていると、くっぴーに紙袋を渡された。


 『これ、今日の衣装』そう言って渡された紙袋の中には、前回のライブ見学の時と似たような、革の服が詰め込まれていた。


 『似合う、かっこいい、イケメン!』


 「まだ着てないのに言うな! それに似合ってなんかなかったっつうの!」


 『どうしても着ないつもり?』


 「そのつもりだ」


 あまりに拒み続けるオレとの不毛なやり取りに腹を立てたのか、くっぴーは靴をカツカツと鳴らして外へ出て行った。


 ふぅ。と溜息を一つ。


 流石に、もうあんな醜態はさらせない。あんな、服。


 でも、少し言い過ぎたかなと思いつつ横目で紙袋を見るが、


 「いやいやいや、あんな姿で人前に立つなんてあり得ないだろ、オレ!」


 頬をパシパシ両手で叩いて目を覚まさせる。


 コンコン。と、扉を二度ノックされ、裏口の扉と同じような錆びた扉独特の音を立てながら開かれる。


 くっぴーが戻って来ると、どこか反省した色の表情でうつむいていた。


 『ごめんね。わたし、スグにわがままばっかし言っちゃうんだ……うざいよね』

 両手には謝罪のためか、あの超有名、黒色の炭酸飲料水が握られており、


 『これ、お詫びに』


 そう書くと、一本手渡された。


 「あ、ありがとな」


 くっぴーの常に勝ち気で偉そうな態度とはうってかわって、ライブ前の緊張からなのか謙虚で大人しい対応に少しドギマギしつつも心の中では、その方がいつもの三倍は可愛いのにな、なんて思い、軽く頬を朱に染める。


 「ありがたくいただくよ」


 受け取ったペットボトルの真っ赤なキャップをひねると、


 プシュワァッ!


 「!?」


 中から異常なほど泡だらけになって炭酸飲料水が爆発した。


 体や服がビショビショのベタベタになり、不快な気分にさせられる。


 あれ? というか何が起きた?


 理解出来ずにいると、目の前で目をキラキラさせながら、


 『その服、もう着れないよね!?』


 そう書かれたボードを胸の前で持ち構えるくっぴー。


 コイツ、ワザとだな。ブンブン振ってから渡しやがったな……。


 「おま――」


 文句を言おうとした時、紙袋を目の前に突きつけられる。


 「わぁった、はい、わかりました! 着ます! 着ればいいんでしょうが……ったくよぉ! クソッ!」


 引ったくるようにして紙袋を奪い、そのままベタベタする、黒いシミを作った服を脱ぎ、着替えの準備をする。


 「――!――」


 服を脱ぎ捨てた瞬間、くっぴーがオレの姿を凝視しながら、耳たぶまで真っ赤に染め上げ、我に返った瞬間大急ぎで扉の向こうへ走っていった。

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