トラック20
「…………」
約三分ほどの曲が部室を満たした。
素人の作る曲。そう高をくくっていたが、
「え?」
気がつくとオレは無言で部長に握手を求めていた。
「あ、ああ。ありがと」
自然と目尻からは涙が溢れる。
特にしっとりと胸に来るようなどこか懐かしい感動的なメロディとかそんなものでは一切ない。ずっしりと重い8ビートに、何もかもぶち壊すかのようなスピーディーなギターとドラムが合わさり、凄まじい迫力を持ったメロディ。
しかし、この音楽はどこかマルメロの曲全てに通じるものがあった。
「いい、これいい! すげえいいっすよ! マジでいいっすよ!」
内から湧きあがる何かを感じ、よりいっそうバンドに対する熱が入る。
「おいくっぴー! この曲……えぇ?!」
振り返るとくっぴーは目をつむり、仰向けに倒れて昇天していた。
「何があった!」
慌てて駆け寄ると、
『最高だぜ』
とボードを胸元で抱えたまま、ヨダレを垂らして、小刻みに震えながら倒れていた。
「い、逝ってやがる……」
「とりあえず、これデモのテープだから、しっかりとメロディ覚えといて。楽器は明日には必ず用意するから」
真っ白なディスクにデモと書かれ、透明なプラスチックケースに入れられたCDを手渡され、オレはすぐに鞄の中にしまった。
「じゃあ、楽器の事もあるし、俺は先に帰るから……妹を、よろしく頼む……それと、歌詞の方も頼む。俺はそっちの才能ちっともないから」
はしたない姿でぶっ倒れる実の妹を、まるで汚らわしいものを見るかのような冷め切った目で一度見つめると、そのまますぐに部屋を出て行った。
さてと、オレは一体どうすれば……。
若干白目で痙攣するくっぴーを一度見つめ、
「よしッ!」
覚悟を決めた。
「帰る!」
オレは決して振り返らず、鞄を持って部室を出て行った。
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