トラック17

 「って、ワケでバンドやる事になりました! お兄さん、約束しましたよね! くっぴーがボーカルするって言ったら曲作ってやるって言いましたよね! 男が一度した約束っていうのは何があっても守らないといけませんよね!? その昔、ここ大和の国では金打といって、堅い約束などのときには、刀の柄などをぶつけ合ったそうです。やりますか? その昔、遊女は言葉巧みにお客を騙す事から本当にゆびを切って小指を送り、信用を得ていたそうです。オレは、お兄さんのために小指を落とす覚悟、出来てますから!! その昔――――」


 「もういいから!」


 普段温厚で寡黙な部長が珍しくこめかみを抑えて、苦しそうに怒鳴る。


 「お兄さん! 約束は守ってもらいますよ! くっぴーはボーカルをします。だから――」


 「わかった……やるよから、ただ……」


 「ただ?」


 オレが首を傾げていると、部長は顔を上げて、


 「お兄さんはヤめろ。お前等、付き合ってんのか?」


 「なッ!」


 くっぴーは聞こえていないのか可愛らしく首を傾げている。


 「違いますよ! お、おおお、オレは、天野ほえちゃんとしか付き合わないって決めてるんです! やめてくださいよ!」


 「ま、なんでもいいけど、とにかくお兄さんはやめろ」


 「じゃあ部長! 約束なんすけど、バンド、やってくれるんですよね?」

 はぁ。と軽く溜息を吐いてから、


 「約束だからな」


 そう言って、自分の机に腰掛け、ノートパソコンを開く。その仕草を見て、オレもすぐに自分の席に向かい、ノートパソコンを開く。


 mac『約束だから、曲は作る』


 kuppy『さっすが私のお兄ちゃんだぜッ!』


 mac『まぁ、やるからにはちゃんと作る。ただ、楽器はどうすんだ?まぁお前はボーカルだからいいとして、チリトリ、何できんの?』


 「うっ……」


 maluo『小学校の時にやった、ソプラノリコーダーなら……』


 二人の鋭い目が一斉にオレに向けられたのを感じる。


 maluo『と、とりあえず、言われたものはなんでも練習します……でも、やるならほえちゃんと同じギターがいいです』


 kuppy『バカヤロー! 音楽舐めんな! 来週には舞台に立つんだぞ! 一週間でマスター出来るわけねえだろ! ファァァアック!!』


 くっぴーがオレに人差し指を立てて来る。


 お前だろ、一番舐めてるのは! と、言葉がノドまででかかったが、自分のハンデを乗り越えてボーカルをすると言った彼女の気持ちを察すれば、そんな言葉は飲込むしかなかった。


 mac『まぁいい。こっちで用意しといてやるよ』


 maluo『へ? ソプラノリコーダーですか?』


 mac『違う違う。そうだなぁ、魔法のギター、ってとこかな。努力する必要もなく、指先の豆が潰れて痛い思いをすることもなく一人前に弾けるギターを用意してやる』


 kuppy『さすがお兄ちゃんだぜッ! よかったなチリトリ!』


 maluo『魔法のギター? 部長楽器なんて作れるんですか?』


 部長が自慢気に鼻を鳴らして、軽くオレを見つめる。


 mac『任せろ。チリトリをキース・リチャーズだろうが、ジミ・ヘンドリックスだろうが、リッチー・ブラックモアだろうが、ギターの神様と呼ばれる人間であろうが、そいつらに引けを取らない最高のサウンドを自在に操れるようにしてやるよ』


 ヤバい、なんだろう。部長がすげえ格好よく見える。


 なんかよく分からないが、楽器の問題は解消されたようだ。


 mac『それより、曲と楽器は用意するけど、詩はどうすんだ? 俺そこまでは面倒みれねえぞ』


 kuppy『それこそチリトリが書くよ』


 maluo『なんでだよッ!』


 立ち上がって二人を見つめるが、


 kuppy『なんにもやらないの、チリトリだけじゃん』


 「うぅ……そうだけどよぅ……」


 kuppy『クールで、最高で、痺れて濡れる歌詞、頼むぞ!』


 maluo『……了解した』


 オレは深く溜息を吐くと同時に、少しだけ口角がつり上がり、ニヤけていた。

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