トラック13

 「はぁ……はぁ……」


 どれくらい走っただろうか。息も絶え絶えになってやっとライブ会場に着いたと思うと、夕方の人だかりが嘘のようにそこには誰もいなく、まったくの無人の場所と化していた。


 「うそだろ……」


 慌てて辺りをきょろきょろと探しまわる。


 「あ、良かった……」


 ベンチに腰掛けて、足をブラブラとさせながら月を仰ぐ少女が、くっぴーが目に入ると、安堵の気持ちで満たされ、小走りでベンチに向かう。


 「おい……あっ」


 そうだ、呼びかけても聞こえないんだった。


 そんな事を思っていると、くっぴーがこっちに気がつきベンチから立ち上がる。


 そのままオレの元へ小さな歩幅を全力で回して走って来た。


 「え? ええ!?」


 どうしたらいいか分からず、ドラマのように両手を広げて待ち構えるが、


 「ええええ!?」


 くっぴーの体が宙に浮き、そのまま奇麗に足を畳むと、オレの胸元に向かってその足をミサイルのように繰り出した。ドロップキックだ。


 ドゴッ、という鈍い音と同時に、くっぴーの両足が胸に突き刺さり、オレはそのまま後ろに吹っ飛ばされた。


 「い……っててて……なにすんだよッ!」


 『FUCK!』


 ボードにそう書いてみ見下ろすくっぴーの姿が目に入った。


 『一緒に帰るまでがライブだって言っただろ! アホ、カス、ウンコ!』


 「ごめん」


 そう言って、とりあえず手を合わせると、


 「……すん……すん……」


 くっぴーは鼻を鳴らしながら、静かに涙を流し、オレに抱きついて来た。


 女子に抱きつかれるのなんて初めての経験で、緊張してどうしようもないと思ったけど、なんだか親戚の子供に泣きつかれたような、ほっとけない感じがして、そのままそっと頭に手を置いてやることにした。

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