トラック9
『ここが私の家だよ』
公園を出て五分ほどしたうちに辿り着き、案内された家は、小さな庭と車庫がついた、周囲の家とよく似た二階建てだった。
くっぴーは家のカギを開けると、招き猫のように、小さな拳で手招きをして家へ招いてくれた。
「お、おじゃましまぁす……」
流石に他人の家に上がるのは、何歳になっても緊張する。少し小さなトーンで挨拶をすますと、
「うお! なにこれ?」
家の中は、まるで何かとてつもない妖怪でも封印されているのかと思わせるくらい、壁中に張り紙が施されていた。
全てひらがなで、『げんかん』『くつ』『かいだん』『こっぷ』などと当たり前のことが奇麗な字で大きく書かれている。
「なあ! これなに? なんなの?」
くっぴーの背中に質問を投げかけるも完全無視で、玄関入るとすぐ目の前にある階段に足をかけたくっぴーが、こっちに来いと言わんばかりに手招きしている。
「いや、だからね、この張り紙は――」
無視。無言のまま背を向けて階段を上がって行く。
いやまぁ、もういいですけどね。慣れてきましたよ……。
階段を上がると、左右に扉があり、左のドアには『いもうと』右のドアには『あに』と書かれたボードが吊るされていた。
くっぴーは、兄と書かれたドアを勢い良く開け、
「おい! いいのかよ勝手に……」
相変わらずの無視で、オレの手を掴み部屋に無理矢理招き入れる。
部屋は、機械やスピーカーでゴチャゴチャしているのかと思っていたが、ベッドと勉強机以外は特に何も無く、シンプルで質素な部屋だった。
くっぴーは取り付けられたクローゼットを開けると、まるで初めて来た男の子の部屋でエロ本を探す女子のようにゴソゴソの何かを探す。そして、それが見つかったのか、大きな紙袋を取り出して、オレに突き出してきた。
『この服、あげるから着替えて』
「え!? いいの?」
くっぴーはこくりとうなずくと、
『わたしも準備してくるから、着替えといてよ! 絶対だよ!』
ボードに書いてオレに見せると、自分の部屋に消えて行った。
「うわぁ」
女子からのプレゼント。女子からのプレゼント。女子からのプレゼント。
今脳内はこれ以外の言葉を考えられない。
「えへへへへへ……」
自分が気持ち悪い声を出している事に関して多少の自覚はあったが、プレゼントを貰った事の喜びにかき消され、すぐに言われた通り着替えるために服を脱いだ。
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