第87話 魔法の先制攻撃
ドアの開かれる音を耳にしたとき、ジュリエットはすべてが終了したものと勘違いしていた。残るは地上に移動するだけだ、と。
「どうやら俺のサポートは…」
口にする言葉は扉から姿を現した存在に遮られた。
ラファエルではない。
人型ではあるが明らかに人間種ではないそれは、細長い両耳が特徴的な女であった。
『エルフ…?』
ジュリエットはとっさにそう思った。
ミスティアルで過ごした経験から亜人に対する抵抗感というものはなかったものの、本物のエルフを間近で目にするのはこれが初めてであった。
何か新鮮なものを感じずにはいられない。
こういう状況でなければミスティアルのことを思い出しながら積極的なコミュニケーションをおこなっていたのかもしれない。
「実物は画像以上ね」リリスは口を開く。「殺してしまうのが惜しいぐらい」
「ラファエルは…」
ラファエルは魔法の前に敗れ去ったのかと彼は思う。
仲間に手を下そうとするそのやり口が気にいらなくてこの場で待機していたのだが、ラファエルが警告したように一度はなかを覗くべきであった。
何のためのサポート役だったのだろうか。
「私の魔法とあなたの超能力…どちらが上なのかしらね」
何が可笑しいのかリリスはクスクス笑う。
「なぜ俺のことを超能力者だと知っている?」
ジュリエットは当然の疑問を口にした。
「ラファエルがすべて教えてくれたのよ。レティシアが節操もなく私たちを裏切ったことも。私の目の前にいる超能力者が倒すべき最後の敵だということも」
リリスの言葉にジュリエットは顔を少しうつむけた。ラファエルは魔法に敗れ去ったわけではなかったのだ。
『俺は…まだまだ甘い』
あの男の心を常に透視すべきだった…、という後悔が沸き起こる。こういう事態は当然予測すべきであった。テレパシーを使用することに対する躊躇いがいまの状況をつくりだしたのだ。
「そういうこと、か」ジュリエットは顔をあげて自分なりの結論に納得した。「まんまと一杯食わされたようだな」
「抵抗しなければ苦痛をもたらさない死を与えてあげる」
「俺には俺の守るべきものがある。だからまだ死ぬわけにはいかない」ジュリエットはリリスを見据えて静かに言った。「いずれおまえはラファエルに殺される。あいつが逃亡する上でおまえの存在は足枷となるからだ。よく考えてみろ」
リリスは言葉の代わりに魔法をもって返答をした。
彼女がサッと手を振りかざすと、三本の炎流がもの凄い勢いでジュリエットに襲いかかる。それがあまりに近距離からの攻撃だったのでジュリエットに回避行動をおこなっている時間はなかった。
炎流は超能力者を取り巻きグルグルと螺旋状に体全体を灼熱の炎で包み込むと、その生命を消滅させんばかりに勢いを増して火の色で外からの視界は遮られた。
炎の固まりがユラリユラリと揺らめくのは、灼熱地獄に苦しむジュリエットがもがき苦しんでいるからなのだろうか。
「これが本物の超能力者…? アンドロイドやサイボーグの方がまだ手応えがあったわ。いったいラファエルは坊やの何を恐れていたの」
リリスの嘲笑は通路に響き渡り、威上高の姿勢で彼女は灰と化す超能力者を眺めていた。
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