第71話 心変わり

「それは有り得ない」ラファエルは自信を持って答えた。「私を殺すつもりがあれば既に殺しているはずだ。どういう理由でだか知らないがお前は超能力の出し惜しみをしている。私やレティシアと遭遇したときにテレパシーで心の透視をしなかったことでもそれは証明できる」


「俺が心変わりしておまえを殺すとは思わないのか」


「おまえの行動パターンからすれば追い詰められない限りそれはありえない」彼はキッパリと言い切った。「だがもしおまえがその力で私を殺すと言うのであれば、私は私の持てるすべての力をもっておまえと戦おう」


 ラファエルは不退転の意思を瞳に浮かべジュリエットの刺すような視線を受け止めた。


 それは追い詰められて開き直っているのではなく、また人工生命体としての自身に溺れた傲慢さでもなかった。彼がこれまで内心で磨き続け育て上げてきた大切な何かがそうさせているのである。


 ジュリエットはほんの一瞬ではあるが、いまとは異なる状況でこの男と出会っていれば、親友になれたのではないのかと思う。


 ラファエルもまたレティシアと同じく尊厳ある個人なのである。たしかに彼は自由を求めるあまり幾多かの者に手をかけた。その罪が消えてなくなるというわけではない。しかし紛れもなく彼は心を持ち合わせた個であった。


「…おまえの合成種族は?」


 ジュリエットは場違いの質問をポツリと口にした。その視線にはもはや刺々しさはなかった。


「ヴァンパイアだ」


「では地上に出たところで陽のもとでは生きていけまい」


「私の体は昼間における耐性がある。そのように遺伝子改良を受けているからな」


「そうか…」そしてジュリエットは言った。「では共に地上へ出る分には問題がないわけだ」

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