第70話 人工生命体からの意外な提案

「初めの攻撃を回避できたのは私の心を透視したからなのか?」


「おまえの心の表層部分を少し透視した」ジュリエットは誓いを破ったことを認めざるえなかった。だがラファエルには何の関係もないことだ。「おまえは明らかに殺意を抱いていた。そしておまえが隠し持っているものを知らないままで渡り合えるほど俺は強くない」


「おまえはそれほどの力を持ちながらレティシアが裏切るまで私の正体に気がつかなかった。出会ったその瞬間に心を透視すればすむことのに…なぜだ?」


「おまえにはおまえの都合があるように。俺には俺の都合がある」ラファエルに信条の経緯を話す気はなかった。そしてその時間もない。「施設系統の封鎖を解除し、俺とレティシアそれに高等弁務官をこのまま地上に行かせろ。その代わり俺はおまえとおまえの仲間について外の連中に話すつもりはない。話せばレティシアにも追及が及ぶからな」


「それは私にとって不利な取引だな」ラファエルはジュリエットに何か弱点がないか思いめぐらせるがすぐにその思考を停止した。心を透視できる相手に隠れた考えごとはできない。「高等弁務官の身柄は私の計画にとって欠かすことはできない。私が一介の研究員として外の者たちを信じ込ませるためには彼女の証言が必要だ」


「外は人工生命体の存在をまだ知らない。だから高等弁務官が証言しなくてもおまえが無事に脱出できる可能性はある。これ以上誰かを巻き込むのはやめろ」


「おまえがそこまで言うのなら…私がおまえとともに地上に出るというのはどうだ? …ひとり増えたところで問題はなかろう」


 人工生命体であることは露見してしまったものの、高等弁務官とジュリエットという隠れ蓑を利用して地上に脱出するという当初の計画を、ラファエルはそのまま実行する気でいた。


「断る」ジュリエットは即答した。「おまえに首を落とされるのはごめんだからな」


「私はおまえと高等弁務官の存在を必要としている。ゆえに私がおまえを殺すことはありえない。それに…」ラファエルは自虐的な笑みを口元に浮かべまたもや感情らしき反応を見せた。「…私の力ではおまえを殺せそうにもない」


「物事が常に理屈通りとは限らない。おまえが妙な行動を起こさないとどうして信用できる。地上に出たければ自分の力で出ろ」


「私を置き去りにするとおまえとレティシアにとって必ずマイナスになるぞ」ラファエルにはジュリエットが耳を傾かざるえない切り札を掌握していた。「私が地上の連中に生け捕りとなれば必然的にレティシアの存在が発覚する。なぜなら彼らが私を尋問し、私としては喋らざるえないからだ。それに隠し立てする理由もない。そうなるとレティシアはあまり遠くへ逃げ延びないうちに捕まることになる。あるいは発見次第射殺されるかだ。どうだ…私の言ってることに間違いはあるか?」


 ジュリエットにとっては考えもしなかったことであった。


 しかも言ってることに間違いはない。


 ラファエルが殺されることなく生け捕りとなればレティシアの正体が発覚する。ジュリエットは彼女を地上に脱出させることばかりしか考えていなかったから、その後の計画などはなく状況の変化に対して酷く脆いのは認めざる得ない。


「ああ、間違ってるよ」ジュリエットは険しい視線をラファエルに突き刺した。「俺がこの場でおまえを殺せばその問題は解決する」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る