第48話 超能力者にとってそれは運命的な出会いであった

「待って、撃たないで!」


 その数を言い終えると同時にに十字路の陰から赤毛の少女がぎこちない動きで姿を現した。


 レーザー銃を両手で構えるジュリエットはその銃口を相手に定めつつも、外見年齢が自分とはさほど違わないであろう少女の出現に戸惑いを感じていた。


「おまえは誰だ?」


「私は…」少女はヘルメットによって顔の見えぬ相手に底知れぬ不安を抱いているようであった。「ここの研究員です」


「そこで何をしていた?」


 詰問口調のジュリエットであるが無意識のうちに少女の赤いロングヘアーと端麗な容貌に意識が分散していた。


「地上から救援が来たのかと思い、それで…」


「呼びかけに対してなぜすぐに姿を現さなかった?」


 ジュリエットの心のなかでは『テレパシーで相手の心を透視しろ』という声があがっていた。そう…それがいちばん手っ取り早い。


「あなたが…人工生命体かもしれないから」


 聞き慣れぬ言葉だ。


「人工生命体?」


 透視しろという声がうるさい。たしかにいちいち質問して真偽のつかぬ返事を聞く手間は省略できる。


 だがそれでは信条に反するのだ。


「…遺伝子操作によって人間と異種族を合成させた生物」


 銃口に怯えの眼差しを注ぎながら少女は答える。


 気のせいかジュリエットには彼女の体が微かに震えているように見て取れた。


「どうも理解できないな」


 返答内容にいまひとつ実感がわかない。


 全身のオーラを恐怖一色で染めている少女にジュリエットは内心で溜息をついた。このままレーザー銃を構えていることがあまりよろしくないように思えたのだ。


 少女の怯えはこの研究所で発生した謎めいた出来事に由来するものであろうが、自分はその要因のひとつになりつつあるのかもしれない。


 ジュリエットは銃口をおろすとレーザー銃をホルスターに収納した。


「怯えさせてすまなかった」その言葉と武器を納めたことで少女の恐怖は少し和らいだように見える。「名前は?」


「レティシア」


「フルネームは?」


「私の名前はレティシア…それだけだから」


 バイザーに閉ざされたヘルメットの内側でジュリエットは困惑の表情を浮かべた。


 地球人といってもいろんな民族が存在するから単一名の者は珍しくないはずだが、実際に目前で聞かされるとやはり奇異な感じは否定できない。


「この研究所で何が発生したんだ? ここは不可解なことばかりだ」


「彼らの…、人工生命体の反乱がすべての初まり。その巻き添えで研究所の人がほぼ全員殺されて…」


「通信回路の閉鎖やアンドロイドの暴走もその人工生命体とかの仕業なのか?」


「メインフレームは彼らに占拠されているから…」


 言っていることに一貫性はあるようだがジュリエットにはいまいち実感がわかない。


「人工生命体には機動歩兵とわたるあえるだけの能力があるのか? 俺の後ろに横たわっている機体はいままで見たこともないやられかたをしているようだが」


「その…」レティシアは言葉を選んでいるようだった。「…魔法能力を持った人工生命体も存在するから」


「馬鹿な…ありえない」


 さすがにその言葉にはジュリエットも驚きを感じざるえなかった。


「エルフと人間を遺伝子合成させて…あまり詳しいことは知らないけど」


 レティシアは視線をそらせた。


 人工生命体自体が突拍子もない話ではあるが、エルフと人間の合成生物が魔法の能力を有しているというのはさらに突拍子もない。しかも少女の話を信じるのならばベルトーニ軍曹の機動歩兵は魔法で破壊されたことになる。


「…長い話になりそうだね」

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