第20話 誤算

 戦闘型アンドロイドによる研究所制圧作戦は、当初でこそそれが順調に進んでいるものと思われた。


 突入早々に発生した警備用アンドロイドによる攻撃を軽々と粉砕し、それに引き続く同型アンドロイドの散発的な抵抗は短時間のうちに撃退が完了したのだ。


 地下第一層における制圧は予定よりも早い時間で終了し、さらなる下層への移動経路を探るべく大隊本部はアンドロイドに探索任務を命じた。


『作戦は成功したも同然』


 防衛軍司令部の作戦室では初戦の戦術的勝利に早合点する者が存在した。リー准将もその一人である。


 だがアンドロイドの中継画像にノイズが発生した時点において、人工生命体らの反撃が開始されたことを彼らは知る由もなかった。


「通信妨害です!」


 大隊本部ではオペレーターがノイズの原因を驚愕に近い声で報告していた。通信妨害など彼らの想定にはなかったのだ。中継映像はノイズによって途切れ大隊本部からの命令通信はアンドロイド側で受信できないことになる。


 軍用アンドロイドが実用化された時点において何らかの要因によって人間による遠隔操作が不可能になる事態は想定されたおり、そのため人間からの指令を受けられない状況下においては自立行動プログラムが自動的に作動し、じ後はAI(人工知能)がアンドロイドを制御することになる。


 当然ながら今回の状況下においても遠隔操作モードが自立行動モードに切り替わり、外部との通信を阻害されたアンドロイドたちはAIの意思で任務を続行した。


 あくまでも探索任務に忠実なアンドロイドたちは通路の壁に設置されている端末などからデータを収集しようとする。そして本来ならば作動するはずのない端末はこのときに限って作動しアンドロイドのリンク用接続部に次々とデータを送信していった。


 ただしそのデータは地上の者たちが欲するような情報ではなく人工生命体たちがアンドロイドを支配下におくためにメインフレームから送信したハッキング・プログラムであったのだ。

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