第19話 見捨てられるかもしれない恐怖
「予想どおりだな」
軍用アンドロイドと警備アンドロイドの戦闘模様を映像で眺めていたラファエルは自分の予想結果に満足した。
だがその満足感は表情にはひとつも現れない。
「私が出ようか?」
リリスは己の魔力を使いたくてうずうずしていた。
「まだおまえの出番ではない」ラファエルはシートをクルリと回転させてリリスと対峙した。「いまから遠隔操作に対するジャミングを実施する。アンドロイドへのコントロールが自立行動プログラムに切り替わればハッキングと各個撃破をおこなうチャンスだ。そのときからおまえの魔法が役に立つ」
「戦闘が終了すれば地上に…?」
「まだだ。安易に地上へ出れば待ち構えてる連中の餌食になる。我々は人間が突入してくるその時を待たなくてはいけない」
「……?」
リリスはラファエルの言わんとしていることが理解できなかった。
「アンドロイドによる攻撃が失敗すれば次は人間を送り込んでくるだろう。なぜなら遠隔操作がジャミングで使用不能となり自立行動プログラムも役に立たないとなければアンドロイドの意味がないからな。地上の連中とすれば人間の目でここの状況を調査し戦闘を続行するしかあるまい。そのとき我々はここの所員として救出を受ける体制を整える」
「そんなの不可能に決まってるじゃない」
「いや可能だ。ここの情報は地上の連中には機密扱いになっている。だから我々の存在を知るわけがないし、むろん我々と所員の区別などつくはずもない。念のためにここの防御システムで攻撃を被るといった自作自演が必要になるだろうが」
ラファエルは再びシートを回転させてコンソールと向き合った。次にリリスが口にする言葉をわかりきっていたので彼女と目を合わせていたくなかったのだ。
「…その計画だとエルフの私はどう行動すればいいの? 私を人間だと勘違いして地上に連れ出してくれるお人好しを待てと?」
「おまえは地上には出られない」あまりにも明確に告げるラファエルにリリスの表情が強張った。「私と一緒には、な。しばらくこの施設内で身を潜めていてもらう。そのための場所も計画も準備してある。事態が一段落した後に私が迎えに行く」
淡々と告げられるその言葉をリリスには俄に信じがたいものがあった。
「レティシアはあなたと手をつなぎあって地上に出られるのに、私はこのなかでいつ来るかもしれないあなたを待てと?」
「しかたあるまい。私とレティシアは人間の容貌をしているが、エルフのおまえは容貌だけはどうしようもないのだから」
「気に入らないわね」リリスはいまの心情をそのまま口にした。「何の役にも立たないレティシアがただ人間の外見をしているというだけで地上に出られて、私はエルフという理由だけで見捨てられようとしている」
「レティシアの潜在能力を甘く見るな」ラファエルはメインフレームへの入力作業を中断すると上半身を回してリリスを見つめた。「おまえに対する私の気持に偽りはない」
見捨てられるかもしれないという恐怖と怒りはいましがたのラファエルの言葉とミックスされてリリスの心の中に愛憎の渦をつくりあげた。
「私を裏切ったら…」リリスは拳を握りしめた。「許さないわよ」
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