第3話 秘密の研究施設

 その研究所は「エレボス研究所」と呼ばれている。


 ミレアがここを訪れるのはまったくの初めてであった。


 なにせここは高等弁務官や大使ですら立入禁止に指定されている秘密研究施設なので正規の手順ではなかに入ることができないのだ。


 そもそもここで何が研究されているのかすら彼女には知らされていなかった。


 科学局長にそのことを訊ねてみても、やはりここの研究についてはノータッチの局長は「さあ?」と首を傾げるばかりであった。


 地球からの着任以来というもの高等弁務官としての業務に追われていたから、ここの施設については長い間意識の外にあったのだ。今回はここの正体を掴む機会なのかもしれない。


 研究所には複数の地上出入口が存在しているが、一般的に研究所員の出入りするメイン出入口は地上一階建てになる建物の屋内にあった。


 あたかも地下鉄の地上出入口のような長いエスカレーターに乗って地下部分の最上層まで移動し、そこからエレベーターでそれより下の層に降り立つことになる。


 ミレアがエスカレーターを降り立つとそこには宇宙港の危険物探知ゲートのような装置が横一列の形で複数設置おり、彼女と同じくエスカレーターを降り立った研究所員と思わしき人たちがIDを示してDNAチェックを受け、ゲートをくぐり奥のエレベーターホールへと移動していく。


 装置脇のカウンターで待機していた警備員と思わしき人物たちは見慣れぬ文官服の女に遠慮のない視線を浴びせてきた。そのうちの一人がつかつかと近づいてくる。


「失礼ですが、研究所の方ですか?」


「あら…私の顔を知らないということはアンドロイドではないのね」


「申し訳ありませんが部外者の方は立入禁止ですので…」


 柔らかな口調だがミレアの言葉に少しばかりムッとしているのが彼女には伺えた。


「高等弁務官の顔くらい覚えておきなさいね」


 その言葉に男は何やら困ったような表情になる。


「所長の許可がなければ高等弁務官といえどもお通しすることはできません」


「スタブロフ所長が私にお願い事があるというからわざわざ来てあげたのよ。ボヤッとしてないで問い合わせてみなさい」


 半ば高慢とも表現できる口調に煽られて男はカウンターに戻っていく。相手が自分に背を向けて戻りかけたときにミレアは早足で歩き出した。


「あ、ちょっと…待ってください!」


 ゲートをくぐり抜けてホールへと向かうミレアの行動にカウンターにいた者全員が驚き、さきほど応対した人物がミレアを静止しようと右手を伸ばして彼女の肩を掴みかけた。


  まさに肩が掴まれようとする瞬間にミレアは突然ダッシュを初めて扉が開かれた状態にあるエレベーター内に飛び込み最初に目についた階層のボタンを押して扉を閉じた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る