第4話 彼ら…とはいったい何者なのか?
エレベーターを降り立ったミレアの目についたのは通路の巨大さであった。高さだけでも10メートルはあろうかと思われるその通路に、なぜ地下の施設にここまで巨大な通路が必要なのかミレアには理解できなかった。
他の階の通路も同様なのだろうかと思いつつ、彼女は足を奥へと進める。
ときおりすれ違う研究員は明らかに部外者と思われるミレアに不審な眼差しを向けてきた。
最後にはセキュリティーに行動を制止されるのはわかっていたから、そのときまでに出来る限りの情報収集をおこなっておこうという考えがあったのだ。
「…彼らの自我も相当な程度にまで育っているね」
「普通になった、と表現するのが的確だと思うけどね」
通りがかった部屋から会話の一端がミレアの耳に入ってくる。そこは扉のない部屋で喫煙場のような様相をしていた。
ミレアの入室と入れ違いに先程の会話の一人であろう人物が通路へと姿を消した。彼女は何気ない素振りで手近にあった椅子に腰かけた。
しかし本来はいるはずのない文官服の女に残る一人が遠慮のない質問をしてくる。
「どうして部外者の方がここにいるのですか?」
「スタブロフ所長から特別輸送の依頼受けで伺いました」
「ああ、高等弁務官府の方ですね…しかし部外者を研究所内に招くなんて珍しいな」相手は探るような目でジロジロとミレアを眺めた。「失礼…ここでは部外の方が非常に珍しいので」
このときミレアの頭には「はったり」で何かを聞き出そうとする考えが思い浮かんだ。
「『彼ら』を輸送するのですか?」
「諸元と自我意識が当初の予想を上回りここのシステムではいささか不安な状態なのでもっと厳重な他星系の施設に移送することにしたのですよ」
「この研究所では事態をコントロールできない、と?」
「現状ではまだ安全ですよ。ですがいずれは問題を生じさせるでしょう。事実この前の事件では死亡者をだしましたからね」
関与できない秘密施設とはいえ死人が発生するとはただごとではない。そしてそのような話はここに来なければ今後一生にわたって耳にすることがなかったであろう。
彼ら…とはいったい何者なのか?
「失礼ですがどのレベルまでの機密区分を所長から許可されているのですか?」
相手は見慣れぬ女に少し話しすぎたといわんばかりに所員としては初歩的な質問をしてくる。ミレアは黙って椅子から立ち上がると相手の質問には答えることなく部屋から立ち去った。
自分の知らないところで何か得体の知れない研究がおこなわれている。
それはいったい何なのか?
軽い気持で踏み込んだ場所がじつはパンドラの箱ではないのかという思いが彼女の頭を占めていた。決して開けてはならぬパンドラの箱。
ふと顔をあげると通路の先から銃を片手にした警備員が接近してくる。あわてて背後に方向転換すればそちらの先には警備用アンドロイドが独特の音をたてながら彼女へと前進していた。
「動くな! 動けば撃つ!」
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