第2話 それは気まぐれから始まった…
先日からというものミレアの頭を占めているのは、憲兵隊長に対する人事措置であった。
『飼い犬に手を噛まれる』
理屈などお構いなしに心を覆う被害者感情が、大使への憎悪をノエルへと方向転換させていた。信じていた人物であればこそ、その感情は大使へ向けられていたそれよりも増幅されていたのである。
『高等弁務官…いまのあなたは少し御自分を見失っておられる』
余計なお世話というものだ。
ミレアは憲兵隊長の解任をそれとなく司法局長に打診し、憲兵総監への人事調整にはいかなる手続きが必要なのかを報告させていた。
もちろん司法局長は二人の間の出来事を知らないので、融通はきかないが能力にかけては非の打ち所のない憲兵隊長をなぜ解任しようしているのか理解できずにいた。
『大使との確執を捨てるべきです。高等弁務官ほどの人物がつまらぬ意地に捕らわれているのは見るに耐えられません』
もう忘れたいと思っているのに頭のなかでリピートされるノエルの言葉はとまることがない。
ディスプレイからの呼び出し音に思考が中断されるとスクリーンに秘書の顔が表示された。
「高等弁務官、スタブロフ研究所長からお電話です」
「用件は?」
「特別輸送に関する支援要請だと仰れています」
ミレアは内心で舌打ちした。大使にしても研究所長にしても自分を庶務係程度にしか考えていない。
ラザフォードの統治者にお願い事があるのなら直接出向く姿勢を示して少しは尊敬の念を示すことができないものだろうか。
「私に回線を回す必要はありません」驚く秘書の反応をミレアは内心で楽しんだ。「私が研究所にまで出向いてお話しを伺います」
「しかし研究所内は高等弁務官といえども立入禁止に…」
「以上です」
ミレアは一方的にスクリーンを閉じた。
人に振り回されて嫌な想いをしたのだから今度は自分が人を振り回してみようという考えがあったのだ。
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