第40話 銃殺刑となる機動歩兵少尉
「ルクレール少尉」威圧高な声音で憲兵隊長は言った。「いや、正確には元少尉だったな」
いまさら階級に何の意味があるのだろうか…ジュリエットは素朴にそう思わざるえなかった。
ノエルの脇には軍事検察官と司法局長が立会していた。
軍内部での起訴を担当する軍事検察官はともかくとして、文官である司法局長はジュリエットが初めて目にする人物だ。
憲兵隊長は高等弁務官の直接指揮を受ける立場だから、本来的に司法局長は関係がない。それに司法局の職務範疇に軍人への起訴等は含まれていない。彼らの職務対象範囲は一般市民及び文官である。
「反地球活動調査委員会は軍法会議の判決を支持するとともに、聴聞会を略する旨を通知してきた。よって銃殺刑は速やかに執行される」
いつかはこういう日が訪れるものと覚悟していた。
「高等弁務官は憲兵隊による銃殺刑執行を認証された。これがその命令書だ」
超能力者に対する処断と元軍人に対する処断、それにラザフォードという特別な場所における死刑執行…いくつもの特殊な背景が混合しているがゆえに、法実務上の立場から司法局長は立会しているのかもしれない。
しかしそのようなことは、いまのジュリエットには何の意味もない。もうじき死にゆく者にはすべてが無意味である。
銃殺刑執行のための処刑場
壁際の支柱に拘束されて身動きがとれない。
「何か最後に言い残すことはあるか?」
憲兵隊長が無表情のままで質問してくる。
「次に生まれてくるときは人間ではなくて小動物がいいですね」
憲兵によって臨時編成された銃殺隊が入場
「目隠しは?」
「自分が死ぬ瞬間は自分の目で見届けますよ」
憲兵隊長は銃殺隊の脇まで移動
軍事検察官と司法局長は更に離れた場所
そしてそこには他にも高級文官たちが待機していた。そのなかにはラザフォードの頂点に君臨する女も混じっている。
まるで見せ物だ。
心なしかジュリエットは「あれが超能力者ですか…」という声を耳にしたような気がした。
「セーフティ解除」ノエルは銃殺隊の面々に告げた。彼らはジュリエットに引導を渡す凶器を所持している。「発射出力最大」
このときのジュリエットがまったく動揺していないといえば嘘になるし、心臓の鼓動がまったく高鳴っていないといえば、それも嘘になる。
「構え!」
ノエルの号令が処刑場に響き憲兵たちはレーザーライフルを構えた。
逃避行はラザフォードが終着駅である。
もう逃げる必要はない。
高等弁務官と視線がかち合う。
『超能力者なんて本当にいるのかしら、ね』…以前ミレアが口にしたセリフをジュリエットは思い出した。
超能力者はすぐ目前にいたのだ。
ジュリエットが死を迎えるための最後のステップは、ノエルによる「撃て!」の号令である。
「俺は死ぬのか…」
人生最後の苦しみが長く続かないことを、彼は誰にもなしに祈った。
そして同時に無意識のうちに思わざるえなかった…『理不尽だ』
片や銃殺刑の指揮をとるノエルは、最後の号令をかけるべく口を開き、「撃て」の母音が喉元まで出かかっていた。
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