第39話 反地球活動調査委員会
「それでおまえは何人の心を透視した?」
「………」
「さあ皆の前で正直に答えたまえ。何人の心を透視した?」
放映される反地球活動調査委員長ジョゼフ・カミンスキーの姿はジュリエットにはとても醜悪に思えた。
実際は醜悪な人物ではないのかもしれないが、自身が超能力者であるジュリエットには反超能力主義者の筆頭であるこの人物をプラスの目で見ることができないのだ。
摘発されたのは深宇宙探査船のパイロットである。
上手い場所に潜り込んだものだ、とジュリエットは感心していた。未知の領域を調査する宇宙船ならば委員会の追及の手をそれほど恐れなくてもすむ。
しかし結局のところは超能力の使用を同僚に目撃され、それが帰還後の通報を招いてしまった。
「人の心を透視したことは否定しません。しかしいまさらその数に何の意味があるのでしょうか」
「心は人に残された最後の聖地だ。われわれは自分以外の何者も覗くことの出来ない自由の聖域を持っている。おまえはその聖地に侵入した。これは人間に対する許し難い冒涜である。私はおまえの大罪を掌握するために数を知る必要があるのだ」
「数は正確には覚えていない」
「ほう…覚えられない程の数なのか。これはまずもって許し難いといわざるえないな」
誘導尋問だ、とジュリエットは思った。カミンスキーの露骨な演出技法が彼には見て取れたのだ。
ラザフォードに来てからというもの新任地の環境に慣れるのに忙しくて深夜番組など見ている余力もなかったから、自宅におけるこのようなジュリエットの姿は珍しいといえた。
「他人の心を透視することが許されないことなのはわかっている。しかし追い詰められれば力を使わざるえない」
「たしかにそれも道理だ。しかしだ…おまえがこれまで人の心を透視したのは、そのすべてが自分の身を守るためだと言い切れるのか?」
「………」
「なぜ黙る? 黙ると言うことは自分にやましいところがあるからではないのかね」
ジュリエットはある時期を境に他人の心を透視しなくなった。地球人の病的な嘘に耐えきれなくなったからだ。しかしそれ以前は透視していたのだから、もし委員会の前に連行される事態になれば、いまのこの男のように返答に窮することになる。
「では質問を変えよう。おまえには同じ超能力者の知り合いがいるはずだ。その名前を明らかにしたまえ」
「残念ながら仲間も知り合いもいない」
「偽証は為にならんぞ。我々にも慈悲はある。素直に証言すれば寛大な処分を検討しようじゃないか」
「ロボトミー手術が寛大な処分といえますか」
「超能力を使えなくするための必要な措置だ。それ以外には死刑しか道は残されていないぞ」
地球連合の世論が超能力者を危険視するのは、なによりもそのテレパシー能力によるところが大きい。
心を透視し、あるいは心を操作する能力に較べれば、空中浮遊や仮死能力はまだ許容できる範疇ということになる。
誰しも心の秘密は覗かれたくないものだ。
カミンスキーはそういう大衆の心理をよく心得ているからこそ、聴聞の焦点を「心」にして地球人の憎悪を手際よく超能力者へと誘導するのだ。
要するに地球人超能力者というのは「生贄の羊」であり、反地球活動調査委員会というのは儀式の場なのだ。
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