第38話 娼館のエルフは病みつきになる?
「…で、おまえさんはリーヌ・エルシオンに行ったことはあるのか?」
アヴシャル少尉の質問にジュリエットは首を横に振った。
将校のみが立ち入りを許されている士官クラブにはまばらに客が存在するだけで、その内部は閑散としていた。
将校のみという制限もその理由ではあるが、実際のところは基地内の味気ないクラブを利用するよりは街中に出るのを好んでいる者が多いという理由による。
「まだ一度もラザフォードから出たことはないですよ」
ときおりアヴシャルは『小隊長懇談会』という名目でジュリエットを士官クラブに引きずり込んでは酒の相手にさせることがあった。
第1小隊長のアヴシャルと第2小隊長のジュリエットは部隊編成上でいえば横並びの関係であり、階級もともに同じ少尉であったから本来でいえば対等な関係であったが、下からの叩き上げで将校に任官したアヴシャルに対してジュリエットは相応の敬意を表してした。
それに戦闘において常に真っ先に投入されるのは第1小隊である。先鋒の勇者に対してどうして二番手の者が大きな顔をしていられようか。
「リーヌ・エルシオンに行くことがあれば何を差し置いてもエルドラドを訪れることだ。何といってもエルフは最高だからな」
「エルドラド?」
第1小隊長はにやけ顔を満面に浮かべると周囲には聞こえない程度の小声でそこが娼館であることを第2小隊長に告げた。
エルフが選り取り見取りの娼館
ジュリエットは「はあ…」と答えてジョッキのビールに口をつけると答えを曖昧にはぐらかした。
「エルフは病みつきになるぞ。あれは一流品のセクサロイドでも霞んで見える」
ジュリエットはクラブ内で放送されているニュース映像にさりげなく視線を向けると、力説するアヴシャルにはなるべく返答しないように努めた。
人工人格と思わしきニュースキャスター嬢がプリメシア市内における安保闘争激化の様相を解説し、これもまた人工人格と思われるコメンテーターが安全保障条約の締結可能性について一論をぶっていた。
「…この街は楽しみが少ない。ま、おまえさんも退屈で発狂しないように自分なりの楽しみを見つけることだな。おっと…地球人の人妻には手を出すなよ。最近事件があったばかりだからな」
ジュリエットは「そうですか…」と相づちを打って消極的な会話に徹した。
「本日深夜の番組予定は…」ニュースは終了して深夜番組の予告編を放映していた。「…反地球活動調査委員会による第42回聴聞会をお送りいたします」
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