第37話 御婦人受けする顔

「おまえさんは『説明係』だってさ」


 第1小隊長のアヴシャル少尉は意味ありげな表情を浮かべながら基地祭の編成担任をジュリエットに告げた。


「説明係…?」


「機動歩兵の展示会場で来場者の質問に答える係だよ。なに…質問する物好きなんかいやしないさ。黙って立っていればすむ楽な仕事さ」


 本当にそうだろうか。いつぞやと同じように厄介事を押しつけられようとしているだけではないないのだろうか…。ジュリエットは何か嫌な予感がした。


「まさか説明係は一人だけ…とはいわないですよね?」


「いい勘してるね」アヴシャルはジュリエットの肩をポンと叩いた。「会場警備や交通統制やらで人手が足りなくてね。それに我らが商売道具の説明に二人もいらないだろう。ちなみに俺は交通統制係だ」


 嵌められた、とジュリエットは思った。


 軍人というのはセールスマンではないから基本的に民間人を相手にする仕事が苦手なのである。


 だから基地祭のようなイベントを開催するときには誰もがもっともらしい理由をつけて民間人を相手にする係から逃れようとするのだ。


 おそらく隊内で基地祭の編成表を作成するときに、腹黒な古参連中が『密談』をおこない、「説明係? そういうのはルクレール少尉にでもやらせればいいんだよ。新参だから文句もいわないさ」…という具合に話が進行したに違いない。


「他にもっと適任の者がいるのでは?」


 無駄だと知りつつも言わずにはいられなかった。


「いやいや、この役目はおまえさんしか適任者がいないよ。それに何と言ってもご婦人受けする顔だしな」


「それは機動歩兵の展示説明とは関係がないでしょう」


「ま、諦めることだな。俺もやらされた経験があるが案外面白いかもしれんぞ。見学に来るお子様のアイドルにもなれるしな。ガキ共は機動歩兵をアニメ番組の延長物と勘違いしてるからな」


 憲兵隊への文書配送といい、今回の説明係といい、どうしてこうも体よく自分は厄介事を押しつけられるのか…ジュリエットは軽く溜息をついた。


 少なくとも高等弁務官に道案内をさせ、憲兵隊長に目をつけられるよりは、説明係の仕事がよほど気楽であるのは確かである。

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