第23話 安全保障条約は同盟にはならないのか?
サミーラにはミレアの言葉の半分も理解できていなかった。しかしここで引いてしまっては将来二度と来ないであろうチャンスを逃すことになる。エルフの王女は自分なりに必死になり頭をめぐらせた。
「私には外界の事情はよくわからぬ。しかし天界人ほどの力を持つ種族がどうして外界とのルールにこだわるのだ。力のある者がルールだ。力のない者のことなど気にする必要はない」
「我々地球人はこの星を支配するために来ているのではありません。友好を育むことがこのラザフォードの目的なのです。つけ加えるならば『永世中立及び内政不干渉に関する宣言』によっていかなる国とも同盟を締結しないことを我々地球人は約束したのです」
「それはおかしい…天界人はこの島の者どもと同盟を締結しようとしているではないか」
サミーラはいまプリメシアで話題になっている安全保障条約のことをずばり指摘した。
ミレアは一瞬言葉を詰まらせた。
サミーラが非常に鋭い点を指摘してきたのである。
プリメシア政府との安全保障条約。これを同盟といわずして何といおうか。
「安全保障条約は軍事同盟ではありません。機械文明と魔法文明、我々地球人が併存するプリメシア島をルーランスの理想像として保護するための必要な措置です。この島の存在を快く思わない国は多く、そしていまのこの島はあまりにも外部からの侵略に非力です。安全保障条約の存在が侵略に対する抑止力として作用するものと考えています。この条約は地球がこの星を攻撃したり支配するのを正当化するものではありません」
「私にはヴァレニウス殿のいわんとしていることが理解できない。正しいのは常に戦いに勝つ者だ。そして戦いに勝つ者は力のある者だけだ」
「エルフの世界支配を助長するような同盟はありえません。それに私たち地球人が人間種であることもお忘れなく」これ以上話すことはないと考えたミレアは終わりのない外交談にピリオドを打つことにした。「私は立場上、不法侵入をおこなったあなたを処罰しなければいけません」
会話の方向転換にサミーラの警戒心が惹起する。
「あなたは本来ならば発見された直後に射殺されていてもおかしくはない立場にあったのですよ」
「………」
「しかしこのまま帰すわけにもいきません。あなただけがラザフォードのなかを覗くことを許された、という評判が外で広まれば騒ぎ立てる人たちが大勢でてくるでしょうから」
「私をこのままここに閉じこめるつもりなのか?」
「いいえ」能面のような表情でミレアは続けた。「誰もあなたを閉じこめたり、苦しめたりしないところに行っていただくだけのことです」
ミレアの発言に嘘はなかった。
問題はその言葉をサミーラがどう解釈するかであった。
「だが私は同盟の儀について大使と交渉するまでは…」
「これ以上ここに滞在を認めるわけにはいきません」ミレアは語気強く言葉を放ち途中で遮った。「違う形でお会いしていたのならば友人にもなれたでしょうけれど…あまりにも状況が悪すぎます」
ミレアが何かを身振りで示すと留置室の外に待機していた二人の憲兵隊員とアンドロイドが姿を現す。そのうちの一人は無針注射器を手にしており、それには即効性睡眠剤が装填されていた。
「さようなら、王女様」
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