第22話 王ではなく高等弁務官

 サミーラは自らが宣言した通り誰とも口をきかなかった。


 そして憲兵隊はエルフの王女を留置場に拘禁し、じ後の処置を高等弁務官の判断に委ねたのである。


 留置室の床に腰をおろしたサミーラは顔をうつむけ、差し出される食事にも一切見向きしなかった。その心は別れて久しい子竜にあったが、いまの彼女にはリースの生死を知る術はなかった。


「リース…」


 かけがえのないパートナーの名を口にしたとき留置室のドアが開放音がしたものの、食べることのない食事の搬入だと思い、とりたてて顔をあげるようなことはしなかった。


「沈黙もハンガーストライキも状況を考えて実行しなさい」


 はじめて耳にする声にサミーラが思わず顔をあげると、そこには威上高な態度で取り調べてきたノエルという名の女と、さらにもう一人別な女。


 初めて目にするその人物は毅然とした態度で立っていた。


「私はミレア・ヴァレニウス。高等弁務官としてラザフォードの統治を委任されています」


 殻に閉じこもり沈黙を続けていたサミーラはその言葉に、強烈な衝撃を受け無意識のうちに立ち上がっていた。


「ヴァレニウス殿はここの王なのか?」


「王ではありません。高等弁務官です」


 その用語の違いがサミーラにわかるはずもなかった。しかし、目的とする人物にようやく謁見できたことに、彼女のなかに何か熱いものが湧き出てきた。


「私は…私は天界人と同盟を締結したい」


 サミーラがその場から一歩足を踏み出すと、ミレアの脇に待機していたノエルの右手が無意識のうちにホルスターのレーザー銃に触れる。


 このエルフがミレアに危害を加える素振りを少しでも見せた場合、無警告で発砲するつもりでいたのだ。


「私には外交の権限がありません。よってあなたと同盟について話し合うことはできません」


「それはおかしい。ヴァレニウス殿はここの王だ。王にはすべてが許されるはずだ」


「王ではありません。高等弁務官です」ミレアは先程のセリフを再度口にした。「ラザフォードで外交の権限があるのは大使だけです」


「では大使に謁見したい」


「それはできません。いまのあなたは不法侵入者にしかすぎないのですから」そしてミレアはやや険しい表情になった。「地球連合と外交交渉を望むのならばルールを遵守なさい」


 ラザフォードの王に外交の権限がない…という現実をサミーラは理解できなかった。民主的な国家においては非常事態でもない限り、権限は常に分散されるという原則をエルシオン人には理解できないのだ。


「ルール…?」


「地球連合政府はルーランスの国際共同機関アーガイルを通じてのみ外交を可能とする…それがこの星の諸国家との合意事項です。ましてあなたがたエルシオンの諸国家とはいまだ国交を樹立していないのですから、同盟締結などというのはそもそもが有り得ないのです」

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