第18話 地球との同盟を望むエルフの王女様
「超越の術に成功した魔法使いは私が知る限り…私だけだ。私は命をかけて術に挑戦した」
エルフの供述をそのまま鵜呑みにはできないが、とはいえ確証の裏づけとなるものは何もない。
「命をかけて…か。そこまでしてなぜラザフォードに侵入した?」
「天界人の王と同盟の儀について交渉するためだ」そしてサミーラはピンと背筋を伸ばし「そなたたちの王に謁見したい」と言った。
「ここには王などという肩書きの者は存在しない。なぜ我々との同盟関係を望む?」
「天界人の力をもってエルフの本来あるべき地位を回復したいのだ。かつて我々はこの世界の支配者であったが、機械と生命が融合した異種族の侵略によってエルフの覇権は失われてしまった」
「つまり…」ノエルは自身の目線を一瞬だけ天井片隅に向けた。監視カメラが稼働していることを確認する。「…地球の軍事力でこの世界の勢力図を塗り替えろということか? おまえたちエルシオン人の覇権を確立するために」
「エルフのためにだ」サミーラはノエルの誤りを指摘した。「王が存在しないのならば、ここの統治者に謁見したい」
ノエルはこれまで憲兵として多数の容疑者、現行犯を取り調べてきたが、憲兵たる自分の視線あるいは尋問口調に物怖じせずに、ここまであっさりと供述をし、なおかつ「要求」をする者はサミーラが初めてであった。
『人間ではないからな』
相手がエルフであり人間とは異なる生物であることを自身に言い聞かせ、今回はこれまでの経験則が通用しない特殊なケースであると、半ば無理に納得しようとしていた。
「侵入者であるおまえに何かを要求する権利があるとでも思っているのか」
正直なところノエルはこの厚かましいエルフに少しばかり腹をたてていた。憲兵たる彼女にとって目上の者以外には常に従順さを求めていたからだ。相手が不法侵入者とあってはなおさらである。
しかしそれはサミーラも同様で、王族への敬意がまったく感じられない目前の女に次第に不快感を募らせていた。もちろんノエルに限らずこれまで会った天界人は皆が自分に何ら敬意を払っていない。
動物か何かを扱うような対応に、蓄積された怒りは相当なものになっていた。
「私をおまえ呼ばわりするな。私はイリシアの王女だ。王族に相応しい扱いを要求する」
サミーラの声には少しばかり怒気が含まれており、背後のドア脇で待機していた憲兵がビクッと反応する。鬼の憲兵隊長にそういう口のききかたをするのが信じられなかったのだ。
ノエルの眼光は鋭さを増したものの、彼女の自制心は沸き上がってくる感情を見事なまでに抑制した。
「イリシア? …聞いたこともないな、そんな国は。それにおまえがどこの誰であろうと私にとっては不法侵入者にしかすぎない」
それぞれが立腹したエルフと人間は机越しに視線の火花を散らしていた。サミーラは手元にマトスがないのが残念でならず、ノエルは「もっと手荒な取り調べ」をおこなえないのが悔やまれた。
「天界人がこれほどまでに無教養で野蛮な種族とは思わなかった。私はここの統治者以外の天界人とはもう口をきかないぞ」
サミーラはそっぽを向くと頑なに口を閉ざした。
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