第15話 偉大なる力には偉大なる義務が伴う
「いたぞ!」
第65機動歩兵隊の格納庫内に兵士の声が響き渡った。
ことのはじまりは、ラザフォードに侵入者あり…という通報であった。
それに続く憲兵隊長からの「小動物」捜索要請
基地の隊員はそのほとんどがラザフォードの一斉捜索に従事させられることとなった。部隊ごとに捜索の担当エリアが割り当てられたため、大半の隊員は基地の外に出払っていたものの、お膝元の基地内捜索のために若干名の隊員が残留していた。
捜索のために武器庫の扉が開かれ、全員にレーザー銃を始めとする個人用武器が支給されていた。
ジュリエットはホルスターに納まっているレーザー銃の重みを感じながら、この星を焼き尽くすまでの力を有する地球人が一匹の小動物にどうしてここまで過剰反応しなければいけないのか納得できずにいた。
自分が所属する部隊の格納庫に駆け込むと、その場に居合わせた兵士が待ってましたといわんばかりにジュリエットに近づいてくる。
「ルクレール少尉の機体にいますよ。ほら、あそこの肩のあたりに…」
その言葉にびっくりして兵士の指さす方角に目をこらすと、たしかに自身が操縦をおこなう機動歩兵の肩部分に、事前に配布された記録映像にあった「小動物」がいる。
「まいったな…」
よりにもよって自分の機体に…張りつめた雰囲気を崩しかねないボーイソプラノの声音でジュリエットはぼやいた。その脇では武器を構えた兵士が銃口を小動物に向けている。
ジュリエットは兵士の銃身に手をあてるとゆっくりと銃口を下にそらせた。
「撃つな」
そう命じるとジュリエットは足場をつたって機動歩兵の上半身部分に登りつめ、目標の位置する反対側の肩から小動物に近づいていった。
童話の世界の動物。
それは竜の子供のように見えた。まるで絵本でも覗いてるかのような錯
覚に陥る。
いや、これは竜に違いない。
ジュリエットの存在に気づいた子竜は、細長い首を伸ばすと低い唸り声をあげた。その可愛らしい外見にはそぐわない声だ。ジュリエットの脳裏にかつて超能力を会得したミスティアルの光景が横切る。かの地の種族のなかには、目前の子竜がダブって見える種族がいる。
ジュリエットは精神を集中すると長らく封じていた超能力の発動に専念した。
<偉大なる力には偉大なる義務が伴う>
超能力をジュリエットに伝授したミスティアル人師匠は力の悪用を固く戒めた。
このまま子竜をレーザーの標的にするのは忍びない。ゆえにこの小動物が地球人に何らかの危害を及ぼす前に捕獲しなくてはならない。
「そうか…」
ジュリエットは子竜の放つオーラから<不安>と<空腹>の感情を読みとる。
「おまえは見知らぬ場所に来て不安になっている。そして腹が減ってイライラしている…そうだろ?」
子竜の前にしゃがみこんだジュリエットはポケットからウェハースを取り出して差し出す。昼食で食べずに取っておいた甘味物だ。子竜は細長い首を伸ばしてウェハースの匂いをクンクンとかぐ。そしてパクッと齧りついた。
菓子粉を散らしつつアッという間に食べ干した子竜は、「グワ~」という鳴き声とともにバサッと翼を広げる。その瞳は先程よりも穏やかなものになっていた。
無意識のうちにジュリエットが右腕を差し出すと、子竜は絶妙のタイミングで腕に飛び乗ってきた。バサバサバサっと羽音が格納庫に響き渡る。
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