第12話 エルフの王女様が遭遇したのは…アンドロイド
「ここは昼間のように明るい」
公園のベンチに腰掛けたサミーラはそばの照明を見上げながら呟いた。
いまだ誰にも遭遇できずにいる。それが良いことなのか悪いことなのかは別として、ここが如何なる場所なのか掌握できないのは不安感を膨らませる一方であった。
腕のなかの子竜がもぞもぞ動きはじめると、その可愛らしい口をパクパクさせて「グウェ~」っと鳴き声をあげた。
「腹が減っているのか…?」
しかしリースの餌となるようなものは何も持っていなかったし、周囲に餌代わりとなりそうなものは皆無であった。
「少し我慢しろ、リース」
サミーラは子竜の頭を撫でて空腹を宥める。
「……?」
エルフ特有の細長い耳がピクリと動きリースを撫でる手が止まった。生まれてこのかた耳にしたことのない奇怪な音が聞こえてきたからだ。
音の方角に目をやると先程見かけた建物群と同じくサミーラの知る言葉では表現することのできない奇怪なものが近づいてきていた。
それは巨大な人形とでもいうべきものであろうか。人の形をしてはいるが人間からは懸け離れたものであり、もちろんエルフではない。リーヌ・エルシオンで目撃したことのある天界人とも違っていた。
故郷エルシオンでは人形使いと呼ばれる特殊な者たちが存在しているが、これもそのマジックと同じなのかもしれない。
驚きのあまり思わずベンチから立ち上がったサミーラはその人形のようなものが近づいてくるのを黙って待つ。逃げようという考えは不思議なことに思いつかなかった。
それはサミーラの目前まで歩いてくると人語を口にした。
「侵入者に告げる。身分を明らかにせよ」
いったいこれは何なのだろうか。サミーラの鼓動は次第に高まり、それに比例して自ずと緊張感が全身を包み込んだ。
「私はイリシア王室第四王女サミーラ…ここは天界人の街なのか?」
「私のメモリーには返答の単語に該当するデータは存在しない。侵入者に告げる。憲兵隊担当者が到着するまでこの場にて静止せよ。この命令に服従なき場合、あるいは抵抗を試みた場合は実力行使をおこなう」
何やら不穏な流れにサミーラの緊張感には恐怖心が混入されはじめた。超越の術に成功すればそこは天界人の世界で、天界人から温かく迎えいれられた自分は同盟の儀についての交渉を開始する…まったく根拠のない将来予想はいままさに冷酷な現実に潰されようとしていた。
ここが目的地なのか否なのかだけでも確認しなければいけない。
「…ここはどこなのだ?」
「ミケランジェロ公園だ」
こういう質問の仕方では望む答えが得られないことを悟ったサミーラは必死に頭をめぐらせた。ミクローシュが口にしていた天界人の街の名前をサミーラは思い浮かべる。
「ここはラザフォードなのか?」
「そうだ」
超越の術は成功したのだ。
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